今日も今日とて、ハートの海賊団の夜は賑やかに更けていく。海賊は宴好きだと相場は決まっているが、もちろんそれは我がハートの海賊団にも当てはまる。
今日は敵船から奪った積荷の中に上等な酒樽がいくつもあった事から、ご機嫌な船長を筆頭に甲板は飲めや歌えの大騒ぎだ。
少し酔いを冷まそうと、騒々しい甲板を抜け出して船尾へとゆっくり向かえば――船内へと続く扉の前でふらつく怪しい人影を見つけ、目を凝らす。
「……ペンギン?」
「ん……ナマエか」
振り向いたペンギンの、目深に被った帽子から覗く頬はほんのり赤い。足元さえ覚束ないペンギンの珍しい様子に、慌てて駆け寄れば。力の抜けた身体が、くたりと寄りかかってきた。
「酔ってるの?」
「……酔って、ない」
「ちょ! 嘘ばっか、酔ってるじゃん…っ」
「酔っ払いは……嫌い、か…?」
そう言いながら、空いた手でわたしの髪の毛をくるくると指に絡めて弄るペンギン。わたしの肩に顎を乗せたまま喋るもんだから、ペンギンの熱い吐息が耳元をくすぐる。
「……酔っ払って思わせぶりな態度をとる男は、キライ」
「そうか、思わせぶり…じゃなきゃ、いいのか」
「そっ、そういう台詞が思わせぶりなのっ!……って、アレ?」
「……スー…」
「お、重たいっ…コラ! 寝るな!」
重たい身体をこちらに預けたまま、穏やかな眠りの世界に旅立とうとしているペンギンをバシバシと叩き起こせば。
「……ナマエ、眠い……」
「眠いならこんなとこで寝ないで早く部屋に戻ろうよっ!」
「んー…ナマエ……膝ま…くら……」
「はぁ!? ……ちょ!ちょっ、待ってよペンギン!」
制止する声も聞かずに、わたしの手を引っ張って座らせる半寝のペンギン。眠そうに目を擦る仕草が何だかかわいい……って、違う違う!何言ってるんだ自分!なんて、心の中で赤面しつつ突っ込めば。
膝の上でスースーと気持ち良さそうな寝息を立てるペンギンの顔が見えたもんだから、どうにも起こす気にはなれず……仕方なくそっと帽子を脱がせる。
「……おやすみ、ペンギン」
サラサラとした髪を撫でてから、わたしも船室の壁に背中をもたれ掛けると、静かに目を閉じた。
おやすみ、かわいいひと「ナマエ……起きろ、朝だ」
「……んー」
「起きないと襲うぞ?」
「……すー…」
「……」
――チュッ
小さなリップ音のあと、ふたつの寝息がまた静かに朝もやの中へと溶けた。
横たわるペンギンの腕を枕に、穏やかな寝顔を見せるナマエ。甲板での雑魚寝から目覚めたクルーに叩き起こされるまで、あと30分。
2010.4.27
2013.6.23修正