「マールコ!」
「あァ、ナマエかよい。どうした?」
「んー?ほら、今夜は冷えるって航海士さんが言ってたから」
普段と変わらぬ薄着で見張り台に立つマルコの元へ、あったかい毛布と少し苦みのあるコーヒーの入ったポットを運ぶと。そんなわたしの姿を見つけたマルコは、いつもの眠そうな顔で、でも優しく笑った。
真っ暗な海を静かに航海するモビーディック号。船の最も高い位置にあるこの見張り台は、満天の星空に一番近い場所。たくさんの家族が暮らすこの船の中で、大好きなマルコと二人ゆっくり過ごせる大切な場所でもある。
えへへと笑いながら、胡坐をかくマルコの足の間にすっぽり納まれば。とんだ甘えん坊だよいなんてからかいながらも、マルコはギュッと後ろから抱きしめてくれるんだ。
そして、わたしが持ってきた毛布に一緒に包まって星空を眺める。わたしの肩に顎を乗せるマルコの重みと温もりがどこか心地いい。
夜空に輝く星たちはわたしたちが生まれる前よりもずっとずっと昔に放った光を、今こうして届けてくれている。永遠とも思えるような長い時を経て、降り注ぐ小さな光たちはとてもロマンチックで。
大好きなマルコと一緒だからこそ、こんな些細な景色に胸が震えそうになるんだろう。
「ね、マルコ。大好きだよ?」
後ろを振り向いて、頬にキスしながらそう告げれば。おれの方がもっとおまえのことを好きだよい、なんて言ってマルコが唇を塞いできた。
夜風に冷えた二人の鼻先は、赤く染まっているのに。ゆっくりと重なる唇と、確かめるように口内を這う舌先は、とても温かだった。
「ふふ、じゃあわたしは……もっともっとマルコを愛してる」
「何だ、おれに張り合うつもりかい?」
離れた唇は焦がれるように、どちらからともなく何度も重なる。競い合うようにキスの合間に繰り返される愛の言葉は、二人の間の僅かな隙間さえ埋め尽くしていった。
あぁどうか、尽きることなく溢れるマルコへのこの想いが、夜空を飾る星たちのように……ずっとずっと先の未来まで輝き続けますように。
何光年も先までずっと愛してる2010.11.25
2013.6.23修正