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おやすみ、また明日


「行くアテがないんなら一緒に来るかい?」


そう言ってゴツゴツとした大きな手を差し伸べてきたマルコの姿を今でもよく覚えている。恐る恐る掴んだ大きな手は小さな傷がいっぱいで少しおっかなかったけど、でもとても温かだった。


物心ついた時にはスラムでゴミを漁って生きていたわたし。ゴミ溜めには同じような孤児が沢山いて、毎日残飯の取り合いだった。

マルコと出会ったあの日も、親切なお婆さんが恵んでくれたパン切れをゴミ溜めの奴らに力ずくで奪われた。路地裏で三人がかりで痛めつけられているところをたまたま通りかかったマルコに助けられたんだ。




「オムライスは好きかい?」


白ひげ海賊団の船へやって来たわたしへ、マルコは黄色いふわふわした食べ物を差し出してきた。マルコの問いかけにふるふると小さく首を横に振れば、ひどく驚かれた。あの時のマルコの顔は今思い出しても笑える。

まぁ当時のわたしは、オムライスなんて立派な食べ物を見たことなくて、好き嫌い以前の問題だったんだけど。ちなみに今現在のわたしの好物はコックの作ったふわふわオムライスだ。




「おまえの誕生日はおれと同じ日だ。当然だろい?ナマエとおれは一心同体なんだからよい」


誕生日を祝ってもらう仲間の様子を眺めながら、いいなぁなんてぽつりと呟いたわたしの声を拾ってマルコが言った。


仲間の祝いごとは盛大に宴を開いて盛り上がるのが、白ひげ海賊団流。うちだけじゃなくてどこの海賊団も似たようなものかもしれないけど…とにかく飲んで騒ぐのが大好きだ。

でも親の顔はおろか自分の名前すら知らないまま大きくなったわたしが、己の誕生日を知るはずもない。ふと翳ったわたしの表情を見逃さずに、大好きな大きな手で頭を撫でながらマルコは言ってくれたのだった。




「……何笑ってんだよい」

「ふふ、昔のこといろいろ……思い出してね」



二人一緒にあったかい毛布に包まりながら、くすくすと笑いあう。髪の毛を耳にかけるようにすくい上げる、マルコの指先が優しくて、嬉しくて。初めて出会った頃よりも傷の増えた逞しい身体をそっと撫ぜる。

胸元に堂々と刻まれたマークを指でなぞれば、ピクリと揺らぐ大きな身体。



「くすぐってェよい」



言いながらぎゅっとマルコの腕の中に閉じ込められて、厚い胸板にコツンとおでこをくっ付けた。わたしも負けじとぎゅっと広い背中に腕を回して、二人の間のわずかな隙間を埋める。

嗅ぎ慣れたマルコの匂いにだんだんと眠気がやってきて、子守唄代わりの心音に耳を傾ければ、すっかり瞼は重くなる。



「……ん…おや、すみ……マルコ……」

「あァ、ゆっくり休めよい」



そっと頭を撫でるマルコの手のひらの感触と、心地いいまどろみに揺られるように、わたしは意識を手放した。








Happy birthday!MARCO★
2010.10.05
2013.6.23修正


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