癖のある黒髪を跳ねさせたまま、床に置いた真っ白な画用紙を前にクレヨンを握る姿に、知らず笑みがこぼれる。大好きな真っ赤なクレヨンでぐりぐりと大きな円を描くその手は、紅葉のようにまだ小さいけれど。丸く整えられた爪の形は誰かさんそっくりで。ううん、爪だけじゃない。ほら見てと言わんばかりに、キラキラと輝く笑顔を向けてくるその顔には、見覚えのあるそばかすが散らばっている。
「上手に描けたね」
「ん!」
「えーっと、これはママで……こっちは?」
「まうこ!」
「まう……ああ、マルコね……ふふっ」
真っ赤に燃える太陽の下、緑いっぱいの草原に立つわたしと手を繋いで笑っている幼子は自分自身だろう。そして青空を気持ちよさそうに飛ぶ、不死鳥。一緒に描かれる人物は母親であるわたしだったり、マルコやジョズら遊び相手になってくれる顔ぶれが代わる代わる登場するのだけれど。
物心ついた頃からこの子が描く絵には、必ず画面のどこかに太陽が描かれていた。今も画面の中で笑うわたしたちを見守るように、青い空には赤い太陽。そしてその太陽にも、ニコニコと笑っているような目と口が描き足されていく。いやになるくらい、見覚えのある笑顔だった。
太陽のような、なんて形容していたはずの彼の笑顔が、本当に太陽になってしまった。きっと空からわたしたちを見守っていてくれるのね。
ねえエース。そっちはどう?オヤジはお酒を飲みすぎていないかしら。サッチは今もナンパを繰り返しているのかしら。エースも誘われて一緒に、可愛い女の子を見て鼻の下を伸ばしていない?
そちらへ行くにはまだもう少しかかりそうだわ。もしわたしが年老いたおばあちゃんになっても、ちゃんと迎えに来てくれる?ねえ、エース。大好きよ。
あなたの愛を育ててもうすぐ二十四ヶ月主催企画「nuovo mondo」へ提出
title / にやり
2013.1.1