大して乱れてもいない陳列棚に並ぶ商品たちを等間隔に並べながら、チラッと横目で窺うのはレジに立つ彼の姿。
ゴキッと音を立てながら首を回す姿に、溜まった疲労が容易に想像できる。そりゃそうだ、このコンビニのアルバイトだけでなく工事現場や警備員、宅配便の仕事も掛け持ちでしているらしい。
大学近くのこのコンビニでアルバイトを始めたのは、今から半年前。シフト上、同じ時間帯に入ることが多い彼――サボとは、同年代という事もあって何度か一緒に働くうちに自然と仲良くなっていった。
きっかけはほんの些細なことだったに違いない。
たとえば、発注ミスをして怒られたわたしの頭を撫でてくれた大きな手だったり。
たとえば、店先でたむろする不良に絡まれたわたしを助けてくれた力強い腕だったり。
たとえば、胸に抱く夢をこっそりわたしに教えてくれた時の明るい笑顔だったり。
けれどいつの間にか膨らんでいたこの想いの伝え方を、わたしは知らない。もっと近づきたいのに、拒否されることが怖くて動けない弱虫なわたし。
わたしに優しくしてくれるのに、きっと特別な意味なんて無い。面倒見のいいサボは、どんくさいバイト仲間を放っておけないだけなんだろう。……たぶん、女の子としてなんて意識されてないんだろうな。
「……はぁ……」
窮屈な胸の内を吐き出すように、思わずため息を吐けば。ポン、と不意に頭へ乗った温かな重み。顔を上げた先――ニカッと白い歯を覗かせて、頼もしくも優しげな笑みを浮かべたサボが立っていた。
「どうしたんだ?浮かない顔して」
「……別に、大したことじゃないよ」
「……そうか」
「うん……」
――あぁ、可愛くないなわたしってば。せっかくサボが心配して声を掛けてくれてるっていうのに、突き放すような言い方しか出来ない。でも間違っても、あなたのことを考えていたんです……なんて言えるはずもないワケで。
言いようのない気まずさを感じて俯けば、頭に乗った大きな手に力が込められてそのままグイッと引き寄せられた。
「なっ、え……!?」
勢いよく顔面がぶつかった先には、すっかり見慣れたコンビニの制服の縞模様。
「おれ、ナマエが元気ねェと……なんか嫌だ」
「……えっと、それって……」
「ははっ、何でだろうな?」
思わぬ言葉に固まるわたしに笑いかけるサボは、少しだけ困ったように頭を掻きながら、でも嬉しそうに抱きしめる腕にギュッと力を込めた。
小さな恋のメロディ
2010.10.17
2013.6.23修正