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さよなら、チェリーパイ


わたしの名前は、ナマエ。この名前は尊敬する大好きなオヤジが付けてくれた。年齢は、たぶん今年で12歳。

スラムのゴミ溜めに生まれて、気付いた時には人間屋で商品として売られていた。搬送用の船が難破して、運よく拾われたのがこの"白ひげ海賊団"だった。



「よう、ナマエ! 今日も暑っちィな〜」

「あ、サッチ隊長! こんにちは!」

「ソーダ水、一杯くれ」

「ハイ、どうぞ!」



食堂のカウンターに肘をついて、リーゼント頭のサッチ隊長が顔を覗かせる。夕食の仕込みを手伝っていた手を止め、コップに注いだソーダ水を運べば。



「おーいナマエー! 今日のおやつは何だ!?」

「ゼハハハハ! エース隊長、アンタさっき昼メシ食ったばっかりじゃねェか」

「おやつは別腹なんだ、おれァ!」

「……ぷっ、ガキかよ!」

「うっせ! リーゼントは黙ってろ!」



サッチ隊長に続いて、食堂へ入ってきたエース隊長と古株のティーチさん。途端に賑やかになった空間に、知らず笑みが零れる。

じゃれあう隊長たちの姿にくすくす笑っていると、厨房の奥で豪快に野菜を切っていたコック長と目が合った。彼が悪戯にウインクしながら、親指で示した先には――



「ふふっ、実はエース隊長たちがそろそろお腹を空かせて来る頃だと思って……」

「おっ! 待ってましたァ!」

「じゃーーん! 今日のおやつはコレです!」

「おお、チェリーパイじゃねェか! ゼハハハ、こりゃ美味そうだ!」



さっき焼き上がったばかりのパイを両手で掲げて見せれば、ティーチさんが大きな身体を揺らしながら豪快に笑う。目尻に皺を作り、ところどころ抜けた歯を見せながら笑うティーチさんはひどく嬉しそうだ。


ううん、ティーチさんだけじゃない。昨日の戦闘で手に入れたお宝の中には、珍しいモノもあったという。詳しくは私には分からないけれど、サッチ隊長やエース隊長を始め、船のみんながご機嫌なのはきっとそのせいじゃないのかな。

それにもちろん――、



「今日はティーチさんの誕生日だって聞いたから、コックさんと一緒に焼いたんです!」

「そうかい、そうかい! こりゃ〜予想外の嬉しいプレゼントだ! ゼハハハハ!」

「よーっし! 冷めねーうちに食おうぜ!」

「ったく、おめェはホンット食うことばっかだなァ?エースー!」

「ゼハハハハ! それでこそエース隊長だァ!」



いくつもの大きな笑い声が響く食堂。
温かくて甘いチェリーパイをみんなで頬張った。


サッチ隊長は「売りモンにも出来るぜ!」と言って頭を撫でて褒めてくれた。
エース隊長は「うまいうまい!」と笑いながらペロッと何枚も平らげてくれた。

ティーチさんは「こんなあったけえチェリーパイを食えるのは、これが最後かもしれねーなァ」と大切そうにパイを噛み締めていた。




さよなら、チェリーパイ




HAPPY BIRTHDAY!TEACH★
2011.8.3


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