こんにちは、白ひげ海賊団新米コックのナマエです。
皆さんご存じの通り、我が海賊団は16の隊に分かれている訳でして。そりゃあもう、クルー全員分の食事を作るとなると本当に大変な作業なんですよ。
もちろんこの船にはクルーの数に見合っただけのコックが揃っていますが、2番隊のエース隊長を筆頭に大食漢の皆さんのおかげで、一日の仕事を終えるともうグッタリへとへと……って感じです。
でも、自分たちが愛情込めて作った料理を美味しそうに食べてもらえるっていうのは、やっぱりすごくやりがいを感じますし、嬉しいことなんです。だから毎日頑張れるんです。それなのに――
「ハルタ隊長……またこんなに残してる」
「何だよ、ナマエのくせに僕に文句でもあるの?」
返却口へ戻ってきた、食べ終わったはずの食器――なのにハルタ隊長のお皿だけ、いつもご丁寧に食べ残しの山がこんもり盛られているのだ。
今日はピラフに入っていたちっこいピーマンと人参を、ご丁寧に選り分けて残して下さっていた。……無駄に器用だ。
「や、文句じゃないですけど……好き嫌いせずに食べないと大きくなれませんよ?」
「……へぇー、そういうこと言っちゃうんだ?」
「うっ……すいません」
ニコニコと笑みを浮かべながらも、つぶらな瞳の奥が妖しく光ったのをわたしは見逃さなかった。……いや、出来ることなら気付きたくなかったけど!
「ナマエってばいつからそんなに偉くなったのかなァ?」
厨房と食堂を仕切るカウンター。そこへ身を乗り出してきたハルタ隊長が、ニヤリと笑いながら瞳を覗き込んでくる。つつつ、とわたしの顎をなぞる指先に固まっていると。
目と鼻の先にハルタ隊長のどアップが迫ってきて、顔に熱が集まるのを感じた。
「そんな顔してもダーメ。コックならさ、ちゃんと食べられるもの作ってよ」
「っ、すいません……」
確かにハルタ隊長の言う通りだ……。毎日の食事は、身体作りの礎とも言える大切なモノ。苦手な食べ物があるのなら、食べてもらえるように調理の工夫をするのが、コックの務めじゃないか。
ああもう、何でそんな大事なことに気付かなかったんだろ……じわりと浮かんでくる涙を、ゴシゴシとコックコートの袖で乱暴に擦った。
「あーぁ、そんなに強く擦ったら目腫れるよ?」
「っ……ごめ、なさ……!」
「さっきから謝ってばっかじゃん。……ねェ、知ってた?」
そうやって泣き顔見せられたら、余計に苛めたくなっちゃうんだよね――
思わぬハルタ隊長の言葉に、零れ落ちる涙も一瞬引っ込んだ、その瞬間。
「っ!な……え!?」
「あはっ、へーんな顔ー」
目尻に溜まった涙を掬い取るように、ペロリと舐め上げた赤い舌がゆっくりと離れる。見開いた瞳に映るのは、悪戯が成功した子供みたいに邪気のない笑顔を向けるハルタ隊長の姿だった。
キミは僕の玩具だから、ほうら泣いてごらんよ2011.3.10
2013.6.23修正