Varia | ナノ
これでも僕はずっと前からきみに一途なのだけれど


扉を開けて向かって左の壁面には、小難しそうな本がびっちり並んだ本棚。天井近くまで高さのあるそれが倒れでもしたら、きっと小柄なナマエは本の山に埋もれて圧死するだろう。
いくら前線に出ることはないと言っても、仮にも暗殺部隊に所属する人間の死因がそれでは、いささか間抜けすぎる。あと、コイツはもう少し部屋をキレイに保つことを覚えるべきだ。ま、王子が言うことじゃないけど。


「相変わらず汚ねー部屋ー」
「……あれ、ベル」


扉に背を向けて作業台でごそごそしていたナマエが振り返る。マーモンの部屋とまではいかないけど、怪しげな液体が入ったビーカーに試験管、それから謎の異臭を放つ粉末などなど。
こんな部屋に一日中籠もってたら、体にカビでも生えちまいそー。マッドサイエンティストの考えることはよく分かんないね、まじで。


「あれ、じゃねーっつの。おまえいつまで部屋籠もってんだよ」
「いやー今やってる実験がちょうどいいところでさ、あはは」


そう言いながらもちゃんと手にしていた器具を置いて、律儀にこちらへ体を向けてきたから、おれも手近にあった椅子に腰を下ろす。こうして真正面からコイツと顔を合わせて話をするのはいつぶりだっけか。


「実験つっても、どうせまた実戦で使えなさそーなアヤシイ薬とかだろ」
「あっ、失礼な! 今回は作戦隊長に頼まれたちゃんとした薬だもん」
「あーハイハイ。分かったからメシ食いに行こうぜ」
「えー…外に?」
「言っとくけど、ナマエに拒否権ないから」
「もう、ベルは強引だなー」


口先では文句を言いつつも、立ち上がったナマエは壁に掛けられた上着を手に取る。我ながら単純だとは思うけど、それだけのことなのに口角が上がるのが自分でも分かった。
そんなオレを見て、どうしたの機嫌良さげだね、なんて不思議そうにこちらを見上げてくるナマエ。徹夜明けなのか少しボサボサの頭をひと撫でしてから、部屋を出た。


「ねえベルー、わたし先月行ったトラットリアにまた行きたいな」
「あん? あのトスカーナ料理が美味いとこ?」
「そうそう!」
「いいぜ、行くか」


おまえは知らないだろうね。興味の対象を見つけた途端、オレのことなんてすっかり忘れて没頭しちゃうおまえのそのやっかいな性質もひっくるめて全部、自分のモンにしたいオレの気持ちなんて。
ふらふらどっか行っちまわないように首輪でも付けてやろうかとも思うんだけど、それじゃ多分おまえらしさ、ってのがなくなっちゃうのかもね。

だからこうして程よい距離感でおまえのことを見守るオレって、アレ?まさに王子様じゃね?
ま、とりあえず。今はこうやって繋いだ手のひらだけで我慢してやるから、これからもずっと王子のそばにいろよな。



これでも僕はずっと前からきみに一途なのだけれど



title / 寡黙
2013.12.23


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