Varia | ナノ
世界が終わるその瞬間もそばにいさせてね


セックス・ドラッグ・ロックンロールをステレオの中から叫ぶ猥雑なロックミュージックが爆音で響く中、部屋のソファで菓子袋片手にご機嫌な様子のベルがヴィン・サントを瓶のままで煽る。

聖なるワインと呼ばれるこのお酒をベルの部屋に持ち込んだのはわたしだけれど、まさか瓶のままでぐびぐびいかれるとは思ってもいなかった。せっかくちょっと張りこんで上等なヤツを買ってきたのに。

やれやれと思いながら、瓶の中身が空っぽになってしまう前にわたしもお相伴に与ろうと、用意していたカントゥチーニをグラスに注いだヴィン・サントへ浸す。この硬めのビスコッティがワインを含んで柔らかくなる食感が好きなのだけれど、どうもベルはそれを好まないらしい。さっきから塩気のあるスナック菓子ばかりバリバリと噛み砕いていた。


「ねえベル、今日で世界が滅亡しちゃうんだって」
「あん?」


ちらりと壁にかかった時計に目をやれば、長針と短針がもうすぐ真上で重なろうかという頃。指先についたスナック菓子の粉を舐め取りながら、隣に座るベルが怪訝そうな顔を向けてくる。ワインのせいか白い頬がほんのり色づいていて、何だか色っぽい。


「だからー12月21日でね、」
「聞こえてるって、だから何だよ」
「ベルの誕生日お祝い出来なくなっちゃうね」
「ふーん。地球滅亡まであと5分じゃん」
「ベルはそれでもいいわけ?」
「別にー。だってオレ、王子だし」
「あ、そう」


つーか滅亡とか有り得ねーし。だってもう世界のどっかでは明日が始まってんだし?時差考えろよバーカ。なんて思いっきりわたしを見下したにんまり顔で、ベルがまた新しい菓子袋に手を伸ばす。食べすぎだバカ。


「まーでもあと5分で世界が終わったとして、オレは死なねーけど」
「何でだよ、死ねよ堕王子」
「うしし、おまえ今すぐ死にてーの?」
「ごめんなさい」
「でもさー、ナマエはラッキーだよな」
「は? 何がよ?」
「だって地球滅亡の日に王子と一緒にいられんじゃん」
「………」
「世界が終わる瞬間まで、隣にいさせてやってもいいけど? しししっ」


そう言って袋の中から摘み上げたチップスを、呆れてぽかんと開いたわたしの口の中へと放り込んだ。反射的に噛み砕いた脂っこいそれも、ちょっと今はよく味が分からないかもしれない。とりあえず、一番上で重なり合った時計の針を確認したので、この目の前のエセ王子におめでとうを伝えたいと思う。



Buon Compleanno!Belphegor



2012.12.22


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