Varia | ナノ
今日の僕は今日のきみを、明日の僕は明日のきみを精一杯に愛してる


ガラス張りの温室は一定の温度を保ったまま、1年365日変わらぬ姿でわたしたちを迎えてくれる。芳しい花の香りをすんと嗅いで、眠たそうに大きな欠伸を見せるスクアーロを振り返った。


「スクは働きすぎだよ」
「ゔお゙ぉい、そりゃボスさんに言え」
「適当にベルとかに仕事振ればいいのに……」
「あのワガママ王子にやらすよりオレがやったほうが早ぇんだぁ」
「ほら、それ! そういうのがダメなんだって」
「ちっ、うるせぇなぁ゙」


がしがしと長い銀髪を掻き乱しながら、不貞腐れたように温室の隅へ置かれたベンチへと寝転がるスクアーロ。大きな身体はもちろんベンチの幅をゆうにはみ出ていて、行儀悪く肘置きの上で組まれた両脚は嫌みなほどに長かった。


「スクアーロ」
「……何だぁ」
「心配なの……スクが倒れないか、いなくなっちゃわないか……」
「ナマエ……」


ベンチの端の空いたスペースに腰を下ろし、じっとこちらを見上げてくるスクアーロの頬に手を伸ばす。絡んだ視線はそのままに、男のくせにキメの細かな肌の感触を確かめた。ちゃんと血が通ったそこは、温かい。


「スク、わたしを置いていなくならないで……」


血も涙もない最強の暗殺部隊ヴァリアー、そこに属する最強の剣士はただひたすら己が信じた道を突き進む。後ろなんて振り返らない、目に映るすべてを薙ぎ払いながら前進し続けるのだ。

必死になってその背を追いかけた。たとえ追い抜くことは出来なくても、その影を踏めるくらいには近づけたはずだ。それでも、この胸の不安を拭い去ることなんて出来ない。近づけば近づくほどに、彼を目の前で失うかもしれないという恐怖に、押し潰されそうになった。

強くなるためなら左手を失うことさえ厭わない。自らの誇りを守るためなら命すら擲とうとする。そんなこの男の不器用でいて真っ直ぐな生き方に、何度このちっぽけな心臓がひやりと縮み上がったことか。


「なぁ、ナマエ」
「なに?」
「オレは死なねぇ、とは約束してやれねぇ」
「……」
「だがなぁ……死ぬつもりなんかねぇぞぉ」


頬に置いたままのわたしの手のひらを、スクアーロが強すぎるくらいの力でギュッと握る。獲物の前では血に飢えた獣のような鋭さを見せる三白眼が、真っ直ぐにわたしを捕らえながらも今はただ切なげに細められていた。


「これだけは忘れんな」
「ス、ク……」
「オレが剣を振るう理由はザンザスだが、オレが生きる理由は……ナマエ、おまえだぁ゙」


そう言いいながら伸ばされた大きな手のひらが、今度はわたしの頬を包み込むようにそっと触れる。輪郭をなぞるように這う親指が、知らず知らずのうちに零れ落ちていた涙の痕を追いかける。そうやって優しく触れる指先で、わたしの胸の不安もすべて拭ってくれればいいのに。

死なないで、なんて言えやしない。でも生きて、生きて欲しい。死なない限りは。わたしはずっと、ここにいるから。



今日の僕は今日のきみを、明日の僕は明日のきみを精一杯に愛してる



title / hmr
2012.9.11


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