Varia | ナノ
その背に残す爪痕


女にだって性欲はある。ワケもなく苛々としてしまう時、鬱々と沈んだ気持ちになる時。自分一人では抱えきれない感情に押し潰されそうになったら、ナマエはスクアーロの部屋の扉をノックすることにしている。


「スクアーロ、いる?」
「……何の用だぁ」
「何って、わかってるくせに聞くの?」
「チッ……来い」


開いた扉の隙間から漏れる部屋の明かりが、顰めっ面の男の顔に影を作る。舌打ちをしながら荒々しく掴んだナマエの手首を引いて、スクアーロは部屋の奥のベッドへと真っ直ぐに進んでいった。

大人しく引き摺られるまま、彼女の細い身体が白いシーツの上で跳ねかえる。苦々しい表情のまま覆い被さるスクアーロの顔を下からじっと見つめたまま、ナマエは頬をくすぐるように垂れ落ちてくる長い銀髪へと手を伸ばした。


「髪、伸びたね」
「まあなぁ」
「もう10年以上経つもんね」
「……てめえは、いつまでこんなこと続けるつもりだぁ」
「……付き合わせてごめんね、スクアーロ」
「今さら謝罪なんざいらねぇんだよ、阿呆が」


そう言って、着ていた洋服を脱ぎ捨てたスクアーロの上半身が露わになる。太い首から肩、上腕筋にかけての引き締まった筋肉。胸筋から続く割れた腹筋を指先でなぞりながら、ナマエの背はぞくりと震えた。鍛えられたこの目の前の身体が与えてくれる快楽を、彼女はいやというほど知っていたから。


「ん、そっか……スク、ごめ…」
「そろそろ黙れぇ」


またしてもナマエの口からこぼれ落ちた謝罪の言葉を遮るように、スクアーロの薄い唇が彼女のそれと重なった。言葉を紡ごうと開いたままだったそこから容易く侵入した舌は、貪るように咥内を探りながら深くなっていく。

そして唾液を交換し合う行為に没頭することで、二人は名前の付けづらいこの関係に、明確な答えを出すことから逃げ続けるのだ。

自分へと向けられる男の気持ちに気付きながらも、身体だけの繋がりを続ける女の狡さも。その狡さに縋るように快楽を植え付けて、いつか自分のモノになればいいと願う男の弱さも。見て見ぬふりで肌を重ねる夜だけは、忘れてしまおう。



その背中に爪を起てるとき、世界がたまらなくくだらないもののように見えるんだ



title / hmr
2012.7.22


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