Varia | ナノ
その呪いはあまりにも強力でいとおしい


好きで好きで、本当におかしくなるくらい大好きで。だからこそ、そんな自分が怖くなって、手放した恋があった。その名前すら口に出すのを躊躇うほどに、未だわたしの心を掴んで離さない愛しい人。


「……ねえ、」


でももう二度と会うことはないだろう。イタリアと日本という物理的な距離はもちろん、それ以上に二人の住む世界はあまりにも違ったのだ。最初で最後の彼からの贈り物をぎゅっと握りしめながら、伏せた瞼の裏側に広がるのは――白い歯を見せる悪戯っ子のような笑顔。


「まだ、捨てられないまんまだよ……」


二人で何度か行ったことのある高台の公園で、一人ブランコを漕げば。キイキイと錆びついたうら悲しい音だけが、夕焼け空に響いた。月日が過ぎるのは、無情なほどに早い。学生服に身を包んでいたはずのわたしは、今ではすっかりハイヒールにも履き慣れ、お酒や煙草さえも嗜むようになってしまった。

もともと交わることなんてなかった二つの点が、運命の悪戯なのか一瞬だけ交差した。ただ、それだけのこと。すぐに離れてまた違う方向を見ながら、それぞれの道を歩んでいくんだろう。これで、よかったんだ。


「……ベ、ルっ…」


頭ではそう思っている、理解しているはずなのに。締め付けるようなこの胸の痛みは何年経っても止むことはなく、今もこうして拭ってくれる人のいない涙を愛しい人の名前と一緒にこぼした。


「……ししっ、呼んだ?」


好きで好きで、いっそ自分の手で殺しちまおうかと思うくらい本当に大好きで。でも、だからこそ適当に引っかけて遊んだ女を処分する時みたいに、躊躇いなくナイフを向けることなんて出来なくて。気が付いた時には背を向けて、逃げ出した恋があった。


「っ!……な、んで…いるの?」
「だってオレ、王子だもん」
「な、に……それっ…やだ、なんで……今さら」
「ホント、今さらだよな」


けどいくら遠く離れても、時間が流れても、逃げ切れなかった王子の負け。結局どこにいても、何をして誰と過ごしていようとも、おまえの顔がチラつくんだ。だから攫いに来た。言葉が違う?住んでる国が違う?暮らす世界が違う?だからなに?もうそんなの全部ひっくるめて、全然大したことないよ。だって――


「ナマエがはじめてなんだぜ?オレが殺さずに、生きたまま別れた女って」
「……え?」
「しかも10年経っても未だに忘れらんねーとか」
「ベ、ル……」
「だからいい加減、責任取って王子に攫われてよ」


好きで好きで、本当におかしくなるくらい大好きで。手にした温もりが怖くなって手放した恋があった。けれど、そんな臆病なふたりを惹き合う呪いのような引力は、10年という時を経ても尚弱まることなく、またふたりを巡り合わせた。



その呪いはあまりにも強力でいとおしい



title / hmr
2012.7.16


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