カス鮫が長期任務で本部を空けてから一週間、暇をもて余したナマエの姿を談話室でよく見かけるようになった。丁度いいからソファに寝そべったまま、スナック菓子と牛乳を持ってくるよう声をかけてやる。
そうすると、だらだらするなとか目上を敬えとか文句を言いながらもちゃんと王子の望むモンを持ってくるって知ってるから、ナマエのことはキライじゃないよ。年上ぶった小言はうぜーけど。
「ベルってば任務がないと食っちゃ寝ばっかりなのに、よく太らないよね」
「だってオレ王子だもん」
「いや、王族関係ないから」
「うっせー。黙れ庶民」
「もう、口の悪い王子さまだなぁ」
そう言いながらもニコニコと笑うナマエにつられて、オレも何となく気分が良くなって。ふと思い付いて上半身を起こすと、ソファの隅っこに腰かけていたナマエの膝の上へ、ティアラの乗った頭を勢いよく落としてやった。ししっ、やわらけー。
「わっ、ちょっとベル! 重いってば」
「膝枕くらいでケチケチすんなよ」
「もうっ、このワガママ王子が!」
「しししっ」
何だかんだでいつもオレのワガママ(とは別に思ってねーけど)を聞いてくれるナマエを見上げながら、歯を見せて笑ってやれば。諦めたようにため息を吐いたナマエの指先が、オレの金色の髪をゆっくりと梳いていく。
てかコイツ、こんな細い手でよく暗殺とかやってんな。ちょっと強く握ったら折れちまいそうなんだけど。そんなことを内心で考えながらも、髪に触れる感触が心地よくて瞼が重くなってきた。
「……なー、ナマエってカス鮫のどこがよくて付き合ってんの?」
うつらうつらとする意識の中でナマエの体温を感じながら、ぽろりとこぼれ落ちたのはオレの心からの疑問だった。だってどう考えても、あのカスには勿体なくね?いっつもボスに物投げられてっし、声はバカみてーにうるせーし。
「えー? どうしたの、急に」
クスクスと笑いながら、でもちょっとだけ嬉しそうに頬を染めたナマエ。今はここに居ないカス鮫を思い浮かべてるんだろうか。王子やオカマ、マーモン達に向けるのとはまた違う穏やかな微笑みに、知らず口角が下がる。
「……だって、似合わねーじゃん」
「何よーわたしじゃスクに釣り合わないって?」
「ちげーし、その逆」
「ふふっ、ベルにもそのうち分かる時が来るよ」
「何だよそれ」
大人びた笑みを浮かべたままサラサラと指通りのいい髪を梳くナマエの言葉は、まるでオレがガキだから分からないとでも言っているようで。なんかムカつくんだけど。だって知らねーよ、そんなの。だったらナマエが王子に教えてよ。
……なんて口に出して言うのは悔しいから。モヤモヤとした気持ちに蓋をして、柔らかく温かな膝枕をもう少しだけ堪能してやることにした。
恋の字も知らないままきみを見ていたでも、たぶんきっと……
これが初恋ってやつなんだろう。
title / hmr
2012.7.3