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飼われている錯覚


先程から新しく買った本に夢中なロー。静かな部屋にはカチコチと時計の針が奏でる無機質な音と、ローの指がページを捲る音だけが響いている。

手持ち無沙汰なわたしはベッドに寝そべってそんなローの横顔を観察。スプリングの利いた広いベッドの上をゴロゴロ転がりながら、早くローがこっちに来てくれないかなーなんて。


「おい、暇ならコーヒー淹れてくれ」


やっと本のページから顔を上げたと思ったら、コーヒーの催促なんて。ローってばいつからそんな無粋な男になったのよ。


「なぁ、コーヒー」
「……はい、はい」


面白くないと感じつつも、部屋の隅に置いてあるカップにインスタントのコーヒーを注いでローの元へと運ぶ、いじらしいわたし。

ソファーの前のテーブルにカップを置いて、構ってくれないローは知らんぷり。小さく尖らせた唇はそのままに、ふかふかのベッドへ戻ろうとしたら。勢いよく身体がつんのめって、バランスを崩した。


「……なに」
「どうせ暇ならここに居ればいい」


そう言って抱き寄せたわたしの肩に手を置いたまま、また小難しい単語がならぶ本のページへと視線を落としたロー。

……こんな絶妙な扱い方されちゃ、何だか飼い慣らされてる気分。でもそれをイヤだとは感じていない自分自身にも気づいていたりするから、どうにもやりきれない。

とりあえず、ローが本を読み終わったらたっぷり可愛がってもらおう。




2010.8.9
2013.6.20修正
title / にやり


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