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目蓋は密やかに恋う


いつの間にかストックが残り僅かになっていた傷薬。ここ数日立て続けに敵襲が重なったことで消耗が激しくなってしまったのもあるし、そんな慌ただしい毎日で在庫確認が疎かになってしまったのも要因の一つだろう。

そして夕食後、急遽キャプテンに言いつけられていた傷薬の調合も、やっと一段落ついたところだ。もうそろそろ日付も変わる頃だろうか。集中して作業していたせいで、凝り固まった体をぐーっと伸ばし、欠伸を一つ。


「……疲れた」


さっさと自室へ戻り、ベッドに潜り込むべきだと分かっている。分かってはいるけれど、疲れた体はなかなか言うことを聞いてくれず、ずるずると脱力するまま作業台に突っ伏した。

ゆっくりと瞬きを繰り返すうちに猛烈な睡魔が襲ってきて、気を抜けばこのまま朝まで意識を飛ばしてしまいそう。遠のいていく意識の隅っこで、あーまずいなぁなんてぼんやり考えていた、ちょうどその時。

医務室の扉が開く音に続いて、聞き覚えのある靴音を耳が拾った。リノリウムの床がキュッキュッ、と小さく鳴る。キャプテンだ。

起きなくては――そう思う心とは裏腹に、作業台に体重を預けきった体はなかなか言うことを聞いてくれなくて。さらには重たい瞼も、接着剤でくっ付けられたように持ち上がってはくれなかった。


「寝てんのか」


ぼそり、小さく呟いたキャプテンの声が遠く聞こえる。落ち着いた声色が心地いい。返事を返せぬまま微睡むわたしの頭に、少しゴツゴツした温かい何かが乗せられた。キャプテンの手のひらだろうか。くしゃりと撫でるような動きが、より眠気を誘った。


「……こんなとこで寝たら、風邪ひいちまうだろうが」


ため息交じりのキャプテンの小言は、すでに意識を手放したわたしには残念ながら届かなかった。けれど夢の中で感じたゆらゆら揺れる感覚と、額に落ちた柔らかな感触は、翌朝ベッドの上で目覚めた時にもしっかりと残っていたのだった。

つまりは、そういうことなのだろう。



目蓋は密やかに恋う



title / 寡黙
2013.12.19


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