「あとは……消毒液を買ったら最後だな」
手元のメモを見ながら前を歩くローの後ろ姿を、一歩下がってじっくりと眺める。もちろん脚の長いローに置いて行かれないよう早歩きで、でも隣には追いつかないくらいの距離を保つ。
肩口に置いた刀を右手で支えながら気だるそうに歩く、少し猫背の背中。くしゃりとメモを丸めてジーンズの後ろポケットに無造作に突っ込む、刺青だらけの左手。
手持ち無沙汰なのか、親指を軽くポケットに引っ掛けてそのまま歩き続けている。お気に入りのジーンズの後ろポケットは、窮屈そうに収まる財布の形に合わせて生地が少し色褪せていた。
……あ。ポケットのところ、ステッチがほつれちゃってる。昨日までは気付かなかった新発見に、思わず口元が緩んだ。
ポケットに掛かる骨ばった指が、色褪せたジーンズが、少しほつれたステッチすら……愛おしいと感じるわたしはおかしいのかな。
「なに笑ってんだ?」
「ん? ふふっ……ローの後ろ姿が大好きだなぁーって、そう思っただけ」
「何だそりゃ。おれはこうやってすぐ手の届く距離にいる方がいいんだが?」
そう言ってニヤリと笑いながら距離を縮めると、少し強引に肩を抱かれた。微かに漂うローの匂いと、真っ直ぐに向けられた視線に、わずかに心音が速まる。あぁ、こうなってしまうともう何も考えられない。
それは苦しいけれど、とても幸せな時間。
2010.4.14
2013.7.21修正