日中の賑やかさはすっかり影を潜めた、深夜の船内。皺だらけのシーツに包まったまま、こうしてローと二人で他愛無い話をする時間が好きだ。時折思い出したかのようにわたしの髪の毛を梳きながらそっと頭を撫でるロー。さっきまで与えられていた熱のこもった愛撫とはまた違う、その指先から伝わってくる愛情にふわりと頬が緩む。
「ロー、好き」
「知ってる」
「……それだけ?」
「足りないか?」
意地悪くニヤリと口端を持ち上げたローが、その骨張った指先にくるりとわたしの髪の毛を巻きつけながらわざとらしく問いかけてくる。わたしの望む言葉なんて分かりきっているはずなのに、こうして不満げに唇を尖らせるわたしを見て楽しんでいるんだ。つくづく趣味が悪い。
「……意地悪」
ぽつりと零した言葉は拗ねた子供のような響きを持っていて、すぐにそのバツの悪さに声に出したことを後悔してしまった。ローからの愛情を感じていないわけじゃない。言葉にしなくてもローがわたしのことを大切に思ってくれていることは十分伝わってくるのだから、無理に言葉を求めること自体が馬鹿げているのだ。
「っ、ごめ……んっ」
今のは忘れて、そう言おうと開いた唇は途中で遮られる。わたしの髪の毛を弄り回していた固い指先が、そこへ押し当てられたのだ。そして輪郭をなぞるように感触を確かめるように、ゆっくりと指が這う。
「なあ、」
いつの間にか眼前に迫っていたローの整った顔に驚く暇もなく、わたしの耳たぶに彼の少しかさついた唇が触れた。掠れた声がやけに鼓膜に響いて、落ち着いたはずの甘い疼きがまた顔を覗かせる。まずい、と思って身を捩ろうとしたときには、すでにローの刺青の入った腕はわたしの身体に絡まるようにしてその動きを封じていた。
「あいしてる」
そして耳穴にねじ込むように囁かれた、たった五文字の言葉の持つ威力にわたしの頬の熱はなかなか下がらなかった。こんなの毎日続けたら、わたしの心臓はきっと一週間ともたないだろう。
そんなわたしには、いつもの口数少ないローの愛情表現でちょうどいい。なんて、今さら悟ってみた。
title / hmr
2012.9.2