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彼の背につのる慕情


あの人がこの船を去ってから、もういくつ季節を繰り返しただろう。グランドラインの天候はでたらめだから、案外わたしが思っているよりも月日は経っていないのかもしれない。ただいくら季節が巡ろうとも、ロー船長の時計の針はあの日から止まったままだ。

そしてわたしも、未だに一歩も動けないまま前にも後ろにも進めず、ただ船長の背中をずっと眺めている。


「ロー船長、潜航の準備が出来たそうです」
「……」
「船長?」
「……ああ、今行く」


甲板に出て海を見つめる船長の後ろ姿へ声をかけるものの、聞こえているのかいないのか……すぐには返事が返ってこなかった。こうやって一人で海を眺めている時のロー船長は、大抵あの人のことを思い浮かべているような気がする。本人がそうだと認めたわけではないけれど、わたしには分かる。

だって、生前あの人と仲睦まじく笑い合う船長の優しい眼差しを、わたしはずっと見てきた。今さっきまで海を見つめていた船長の眼差しが、あの人へ向ける視線とまったく同じだったのだから。


「……きれいな夕日……」


やっとこちらへ振り返ったロー船長の背には、水平線の彼方へ沈みかけた丸くて大きな夕日。青かった空を赤橙色に染めて、ゆらり揺れている。眩しさに目を細めながら、そっと目の前に手を翳した。ああ何故だろう、じわりと視界が滲むのは。


「冷えてきたな」
「はい……」
「風邪ひかねェうちに戻るぞ」
「……はい」



誰かを幸せにすることもされることもないように生きようときめた



そんなあなたの背中を誰よりもそばでずっと見つめていたい、そう思うことは罪でしょうか。



Thanks にやり
2012.5.5


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