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愛を語らぬくちびる


今日はローの誕生日。海の上だから贅沢は出来ないけれど、今夜はいつもより少しだけ豪華な食事と北の海のとっておきのお酒でお祝いした。今頃は甲板で酔いつぶれたクルーたちが雑魚寝しているだろう。


「ロー、誕生日おめでとう」


さっきまでのバカ騒ぎが嘘のようで、この船長室だけ空間が切り取られたみたいにやけに静かだ。朝から何度も繰り返している台詞をまた口にすれば、少しだけ呆れたようにローが笑う。


「フフ…何回祝ってくれるんだ?」


ソファに沈む身体を跨ぐように腰を下ろしたわたしの背を、ローの手のひらがゆっくりと撫でていく。目の前の逞しい首へ腕を回し、耳元で小さく囁いた。


「……何回でも、ローが望むだけ」


密着した身体は、互いの体温と心音を布越しに伝えてくる。トクントクンと規則正しいリズムにどこか安らぎのようなものを感じながら、形のよい耳を食んだ。


「そりゃ随分気前がいいな」
「ふふ、でしょう?」
「あァ……だがそろそろ言葉以外のモンもくれんだろ?」
「欲張りね」
「海賊だからな」


わたしの頬をするりと撫でる、ローのゴツゴツした手の感触が気持ちいい。沢山の命を救ってきたこの手は、それと同じかそれ以上に沢山の命も奪ってきた、決して綺麗だとは言い難いものだけれど。


「ローが望むなら、何でもあげる」


そんなあなたの指先まで、残らず全部がたまらなく愛しい。だからわたしと二人きりでいる時だけは、戦わなくていい。守らなくていい。ただその手のひらはわたしを愛する為だけに此処にあって欲しい。


「へェ、じゃあ手始めに何から奪おうか」


そう言ってニヤリと笑ったローの顔がだんだんと近づいてきて。絡み合った視線のまま唇と唇が重なる――その瞬間、


「ロー、生まれてきてくれてありがとう」


零れ落ちた言葉は I love you でも I need you でもないけれど、でもこの胸に溢れる想いをカタチにするならきっとこんな感じ。足りない分は今から口づけで贈るから、どうか余すことなく全部受け取ってね。



2011.10.06


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