朝日が昇るほんの少し前の、仄暗い紺碧の海。冷たくなった指先に息を吹きかけると、白く溶けていった。
「……何をしてる」
振り返らなくとも分かる、低い声。寝起きのせいかいつもよりも少し掠れているけれど。ローに背を向けたまま、わたしの唇は緩やかに弧を描く。怪訝そうな声がピンと張り詰めた朝の冷たい空気に響くけれど、まだ振り返らない。
あと少し、あと三歩……二歩…一歩、
「おい、返事しろ」
頭上で少し不機嫌そうな声がしたと思った瞬間、包まれる優しい温もり。ぎゅっと絡みつく筋肉質な腕に指を添えて、見上げるようにローの顔を覗き込んだ。
「おはよう」
「……冷たくなってんじゃねェか」
呆れたように言いながら、ひんやりとした髪の毛に小さくキスを落としていく。期待通りのローの行動に思わず笑みを零せば、笑ってんじゃねェと怒られた。
あったかい布団の中でぎゅっと抱きしめられる時間は大好き。だけどこうやってわたしを探しにやって来るローの姿に、冷え切った身体以上に心が暖まる気がする。……なんて言ったらローはもっと呆れちゃうのかな?
それにほら――
「見て、ロー。朝が来たよ」
水平線から顔を出し始めた朝日に照らされて、海面がキラキラと輝いている。こうやって一日の始まりをローと一緒に迎えられることが、何よりも幸せだと感じるんだ。
2010.9.30
2013.6.20修正