現代 | ナノ
壊れた欠片は拾わない


ガチャリ、と金属の擦れる音がして背後の扉が開いたのをぼんやりした頭でうっすら認識する。


「おい、んなとこで寝るな。邪魔だ、ナマエ」
「……ナマエはショックを受けている。返事がない。ただの屍のようだ」
「生きてるじゃねェか」
「うるさいよ、トラファルガー。ちぎって捨てるほど女にモテる君には分からないさ」
「パンツが見えてんのも気にせず床に寝そべる女の気持ちなんて、確かに分からねェな」
「……見んな、変態」
「だったら見せんな」


屋上のコンクリートの床にだらしなく横たわらせていた身体をもぞりと動かして起き上がる。やたらと気を遣ってくれる他のクラスメート達とは違って、いつも通りのトラファルガーの態度に少しだけ笑みがこぼれた。


まぁ、失恋したての女に対する態度にしちゃあんまりだと思わなくもないけど……さり気なく床に置かれたいちごミルクのパックジュースに込められた、こいつの優しさは汲んでやろうじゃないか。

ヤケクソ混じりにストローをぶすりと突き刺して、着色料まみれの甘ったるい液体をちゅうと吸い上げる。


「……あっまー」
「なに勝手に飲んでんだ」
「あんた甘いの飲まないじゃん。素直に傷心のナマエちゃんの為に買ってきたって言いなさい」
「ほんと可愛くねェな、おまえ」
「そんなの……トラファルガーに言われなくても、分かってるよ」


ガジガジとストローの先を噛み潰しながらそう言って膝を抱えるわたしは、本当に面倒臭い女だと思う。だからトラファルガーもわたしのことなんて構わず、さっさと教室へ戻っちゃってよね。


はぁ、と大きくため息を吐いてそのままバタンと後ろに倒れ込んだ。少しだけ背中と後頭部が痛かったけど、このひんやりした感触が壊れてしまいそうな心をどこかギリギリのラインで繋ぎ止めてくれてる気がする。


泣いちゃ、だめだ。目を瞑って頬に当たる冷たい風を感じながら、少しだけ唇を噛み締めていると。突然太陽の日差しが遮られて、大きな影が出来る。

驚いて目を開けると視界いっぱいに広がるのは、隈を携えたトラファルガーの整いすぎている顔面。


「……な、なによ」
「おまえ、なに泣くの我慢してんだよ」
「してないよ」
「嘘つけ、ヘンな顔しやがって」
「う、るさいっ! ヘンな顔はもとからだよ……」
「なんだよ、おれの前じゃ泣けねェっつーのか。あァ?」


ぐにぐにと頬っぺたを抓ってくるトラファルガーの顔はちっとも笑ってなくて。――泣きたいのはこっちだっていうのに、何であんたがそんな悲しそうな顔をしてんの?

思わずシワの寄った眉間を指でなぞれば、トラファルガーの少し冷たい手のひらがわたしの指先を包み込んだ。


「我慢、すんな」
「……」
「そういうくだらねェ感情は吐き出しちまった方がすっきりするんだよ」
「なにそれ……トラファルガーには、関係ないじゃん」
「ごちゃごちゃうるせェ」
「……は!?」
「あんなしょーもねェ男、さっさと忘れてこっち見ろよ」


真っ直ぐわたしを見下ろしながらそう言ったトラファルガーから、何故だか視線が外せない。

トラファルガーに掴まれた指先が、じわじわと熱くなってきて。恥ずかしさから振り払おうともがけば、ぎゅっと力を込められた指先に薄い唇が触れた。


「なっ……!」
「おまえみてェな可愛げのない女、相手出来んのはおれくらいだ」


わざと音を立てるように指先から唇を離したトラファルガーが、ニヤリと口端を上げて笑う。見慣れたはずの意地悪な表情に、不覚にも鼻の奥がツンとした。







2010.9.17
2013.7.13修正


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