日曜日のぎりぎり午前、もうすぐ時計の針が真上を指そうかという頃。天気は快晴、窓の外で木の葉を舞い散らせる風は少し冷たいようだけど、暖房の入ったこの部屋では何ら問題はない。快適、快適。
「おい」
「……」
「おい、聞いてんのかナマエ」
「んー? ご飯ならテーブルの上にあるよー」
「違ェ……」
小さな液晶画面に夢中になって生返事を繰り返すわたしに痺れを切らしたのか、小さく舌打ちをしたローが、わたしの手の中から買ったばかりでまだピカピカの携帯ゲーム機を取り上げた。
「あっ! ちょ、待って待って!」
「待たねェ」
「カブが買えるのって日曜の12時までなんだってばー! 返してよー」
頭上高く持ち上げられたゲーム機に必死で手を伸ばすわたしの様子を、憮然とした表情で見つめながら、ローは大きくため息を吐いた。え、なに、その冷ややかな視線は。
「おまえな……こんなくだらねェゲームとおれの、どっちが大事なんだよ」
「……ええぇー」
「なんだ、その顔は」
「だってローが、わたしと仕事のどっちが大事なのよ! って詰め寄る女子みたいなこと言うから……」
「……うるせェ、悪いか」
そう、数日前に今話題のゲーム「とびだそう☆どうぶつの森」を買ったわたしは、一緒に暮らしているローそっちのけでこのゲームにどっぷりハマりこんでいたのだった。
とは言っても、ちゃんと栄養バランスのとれた食事は今まで通り三食準備しているし、それ以外の家事だってきちんとこなしている。でも何故かローはご立腹のようだ。
「別に悪いとは言ってないけど……なんか、珍しいなって」
「ナマエ」
「……はい」
真剣な目をしたローがじっと見つめてくるもんだから、何だか妙な緊張感を感じてしまう。無意識に飲み込んだ唾がごくりと大きな音を立てて、余計に居心地が悪くなった。
そしてその居た堪れない空気に、身を捩ろうとした瞬間――
「…っ…わ、っぷ! ぁいたっ!!」
鳥の巣みたいに髪の毛をぐちゃぐちゃにされた上に、手加減なしのデコピンまで頂いてしまった。痛い、痛すぎる。かわいい彼女にする仕打ちとは思えないくらい、容赦がない。
思わず涙目になりながらも、抗議の声を上げようとローを見上げれば。
「……もっと構え、馬鹿」
正面からぐるりと背中に回された腕に、ぎゅっと力がこもって。わたしの肩口に埋められたローの尖った顎が、ぐりぐりと鎖骨を抉るように擦り付けられる。ローの整えられた顎髭が、ざりざりと音を立てた。くすぐったい。
それから、そんな甘えるような仕草と一緒にぽろりとこぼれ落ちたのは、命令口調のくせにこれまたひどく甘ったるい一言だったりして。
「ろ、ローが、デレた! キッドに報告しなきゃ!」
「おい、馬鹿やめろ! おい!」
この腕の中でだけかわいくなって(じゃあ、ローも一緒にやろ? ぶつ森!)
(……仕方ねェな)
(今ね、南の島に虫捕りに来てるの!ほら!)
(あァ? んな簡単にヘラクレスが捕れるわけねェだろ)
(そういうこと言わないの! ね、やってみて!)
(……)
(……)
(……ロー、面白い?)
(……ああ)
(……)
(キッドー! ローがぶつ森に夢中になって構ってくれないんだけどー!)
(んなしょーもねェことで電話してくんな、このバカップルが!)
title / hmr
2012.12.17