現代 | ナノ
日溜まりによく似た愛しかた


単身用のマンションにしては少し広めのベランダが気に入って、1LDKのこの部屋を借りた。理由は至って簡単。洗濯物は太陽をしっかり浴びてふかふかに乾かないとイヤだ、だから部屋干しなんて考えられない。そう言った時のローの呆れた顔といったら、ちょっと見物だった気がする。


「ねえロー。何で世の中の人たちは、みんな自分以外の誰かを愛せるんだろうね?」
「……別に全員が全員、そうだとは思わねェがな」


そんなローとわたしは今まさにその広いベランダで、膝を突き合わせて線香花火に興じていた。傍らに置いたバケツの中、張った水面に丸い月が映りこんでゆらゆらと揺れている。

わたしの突拍子もない質問にも、無視するでも茶化すでもなく真面目に返答するローは、昔から変わらずただこうしてそばに居てくれたように思う。


「そうなのかなぁ?」
「おまえにはそう見えてても、実際蓋を開けたら事実は違うことだってある」
「ローは? 歴代の彼女のこと、ちゃんと愛してた?」
「……さあな。忘れちまった」
「えー嘘だー」


手にした線香花火の火はまだ消えそうにない。ぱちぱちと小さな音を立てて、橙色の丸い膨らみを震わせながら火花を散らせる。ローの持つ線香花火とわたしの線香花火、どちらが長く燃え続けるだろうか。息を潜めたままじっと見つめていると、手元に視線を落としていたローがふっと顔を上げた。


「大概の奴らは、嫌いじゃなけりゃ付き合える」
「……」
「男と女なんて、そんなもんだ」
「うん」


何気なくわたしが振った話題は、ローの中でまだ続いていた。そしてこの手の話題は、わたしたち二人の間でもう何度も繰り返されてきたものだったから、ローの言いたいことは何となく分かる。

それでもやっぱりわたしは、ふいに感じる疎外感――世界中のすべてのものから置いてきぼりを食らったような、そんな感情に耐えられなくなる時がある。


「世の中の幸せそうにしてる奴ら、全員が満たされてるわけじゃねェ」
「……でもそれって、虚しいよね」
「どうだろな、捉え方は人それぞれだ」
「わたしは……ちゃんと誰かを愛したい」
「ああ」
「でも、わたしには……出来ない」


わたしは自分勝手な人間だから、自分へ注ぐ以上の愛情をほかの誰かへ向けることが出来ない。いつもそうだ、誰かと付き合ってもお互いの気持ちの温度差が埋まることはない。そして気が付いた時には、やっぱりわたしは一人ぼっちなのだ。


「……ナマエ、二人の人間がいて初めから互いが100%ずつの愛情なんて有り得ねェよ」
「それは、分かってる……つもり」
「だからおまえが負い目を感じる必要はねェ。ただそいつとは合わなかった、それだけだ」
「うん……」


ローの言葉に頷き睫毛を伏せた瞬間、じゅっと一際大きな音を立てて火の玉が落ちた。一気に暗くなった手元をぼんやり眺めていると、橙色の火花が視界の真ん中へ飛び込んできた。驚いて顔を上げると、それはまだ燃え続けているローの線香花火だった。


「ほら、こっちはまだ燃えてるぞ」


そう言って、ぱちぱちと勢いよく火花を散らす線香花火をわたしの手に握らせて、ローが小さく笑った。わたしの火は消えてしまったけれど、真っ暗やみにはならずに済んだ。

ローは昔から変わらずこうしてそばに居てくれて、いつだって手を差し伸べてくれる。ああそうだ、わたしは一人ぼっちじゃなかったんだ。



日溜まりによく似た愛しかた



title / hmr
2012.8.13


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