現代 | ナノ
実験


大学もバイトも、何も予定のない久々の休日。そんな貴重な昼下がりに、突然押しかけてきた大学の同級生――トラファルガー・ローは、この部屋の主であるナマエの彼氏でもなんでもない。

たまたま被った講義で、たまたま隣同士の席に座ったことが幾度か続いたことから、ほんの少し仲良くなっただけの、あくまで単なる同級生であったはずだ。


しかしながらどこまでもゴーイングマイウェイな彼は、今現在持ち込んだ携帯灰皿を吸殻でいっぱいにしながら、台所で勝手に沸かしたお湯で一人分のカップラーメンを作っている。


「ねえロー、いつまで居座るつもり?」
「何だ、ツレねェな」
「ツレないも何も、わたしたちそんな仲良かったっけ?」
「随分な言い草だな」
「だっておかしいじゃん。いきなり来て、もう6時間以上経つんだけど」


みかんの皮を剥きながら、ナマエがさり気なく呈した苦言を気にするでもなく、ぺりぺりとカップラーメンの紙蓋を剥がしにかかるロー。


「おまえんち、落ち着くんだよ。便所で新聞読むみたいな感じで」
「え、何なの、喧嘩売ってんの?」


地方都市出身の貧乏学生であるナマエは、学業の傍らアルバイトで生計を立てている身。オートロックのオの字も見当たらない8畳1Kのアパートは、確かに住めば都ではあるけれど……高層マンションの最上階ワンフロア全てが自宅というローに比べれば、雲泥の差なわけで。


さっきから当たり前のようにローが我が物としているカップ麺も、実はナマエがスーパーの安売りで買い溜めしておいた大好きなシーフード味であるからして…彼女の心の舌打ちは、もう少しで表に漏れ出そうである。


「おれ、今日おまえんち泊まってくわ」
「は!? 意味分かんない」
「何か今から帰んの、だりィし」
「自分勝手か。ていうか、それわたしのシーフード!」
「ケチケチすんな」
「するよ、しまくりだよ! 末代まで祟っちゃうよ!」


ずるずるとイイ音を立ててカップ麺を啜るローに向かって、みかんの白い繊維を投げつけながら、ナマエが頬を膨らませた。だが隣に座るローは、底意地の悪そうな笑みを浮かべてニヤニヤするばかり。


「じゃあ体で払ってやるよ」
「……何が言いたいのかな?」
「カップラーメンのお礼に、寒がりなナマエチャンを暖めてやろうかと思ってな」
「気持ち悪っ」


まぁそう言うな、とか何とか眉間に皺を寄せるナマエを軽くあしらいながら、ローは空腹を満たした身体を水玉のカーペットに横たえる。気持ち良さそうに目を瞑るその表情は、どこか満足気だった。


いきなりやって来て部屋は占領されるわ、勝手に食料を漁られるわ、果ては下ネタ炸裂だわで、ため息しか出てこないナマエだけれど。

普段一人で暮らしているこの空間を、共有するローとの時間はどこか心地よかった。



僕の右脳が幸せになるまでのいくつかの思考と
人間としての在り方




いつの間にやら寝息を立て始めた男の為に、女はお気に入りのマイクロファイバーの毛布を引っ張り出して、こたつ布団からはみ出た肩にそっと掛けた。



title / にやり
2012.1.17


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