現代 | ナノ
爛れる愛


※「爛れた純心を抱いている」を先にお読み下さい





甘ったるい声とわざとらしい上目遣いで媚びてくるのが「女」という生き物なんだと、そう悟ったのはいつだったろうか。どいつもこいつも似たような髪型と化粧に、丈の短い制服のスカート。ちらちらと注がれる視線に、なんだ此処も中学と同じじゃねェか……そう心の中で毒づいた、高校の入学式。おれはアイツと出逢った。

肩先で揺れる艶のある素直な黒髪、生徒手帳に書かれた校則をきっちり守ったかのような膝丈のプリーツスカート。化粧っ気のない肌は、内側から輝くようにほんのりと色づいている。グロスで作られた人工的なモンじゃない、裸の唇の瑞々しさにいつも視線が奪われる。

それは例えば、配られたプリントを後ろの席に回す時の一瞬だとか、ざわつく昼休みの教室で不意に聞こえてきた笑い声に手を止めた瞬間だとか、そんな些細な繰り返しで。いつの間にかおれは、退屈な授業に飽きた時――外の景色を眺めるフリして窓ガラスに映るナマエの横顔を見つめていた。


「それ、借りるのか?」
「……え?」


はじめて言葉を交わしたのは、誰もいない放課後の図書室だった。気まぐれで足を運んだ、少しカビ臭いソコで見つけた後ろ姿。思わず声をかけていたおれの心臓は、ダセェくらい速いテンポで強く脈打っていたのを覚えている。

そして気がつけばおれたちは毎日、放課後の時間をあのカビ臭い部屋で過ごすようになっていた。少しずつ増えていく会話。お互いの好きなもの、嫌いなもの。共有し、積み重ねていく時間。


こうして自然と近づいていく距離に、胸を擽られるようなどこか明るい予感に浸りながら。いつものように図書室でナマエを待っていたあの梅雨の日以来――

おれとナマエの視線が交差することはなくなった。

耳触りのいい笑い声も、本のページを捲る細い指も、さらりと流れ落ちる黒髪も。もうこの手の届く距離には見つからない。何度も教室で声をかけようとした。その度にさり気なく避けられ、だんだんと広がっていく二人の距離。


苛々とぶつけようのない想いを抱え、八方ふさがりの現状に嫌気がさし始めた頃だった。最近やたらとおれに付き纏ってくるキャーキャーうるさい女と、ナマエが双子の姉妹だと知ったのは。じめじめ蒸し暑い梅雨が終わり、ギラギラと照りつける太陽が顔を覗かせ、季節は夏本番を迎えようとしていた。


「あぁあっ、ローくんっ、好き…っん、あっ」
「……くっ…」


何もかも狂ってしまったのは、堂々巡りの思考を溶かしていくこの真夏の太陽の所為だろう。そんな風に責任転嫁して、おれは何度も何度も女を抱いた。ふわふわの綿あめのように柔らかで茶色い髪、扇情的に腿を晒す丈の短いスカート。艶やかなピンク色のグロスに濡れた唇を貪って、その瞳の奥の奥に、違う何かを必死で探す。


キーンと耳鳴りの響く頭の奥――色を失くして霞んでいく世界で、折り目正しいプリーツスカートがふわりと揺れるのを見た気がした。



爛れる愛



どうしようもなく、穢してやりたいんだ。
咲き誇るその前に手折ってしまえば、大切なその花が摘み取られることもないだろう?



title / hmr
2011.7.6


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