今日は残業もなく、すんなり定時で会社を出ることが出来た。デパートに寄って化粧品売り場を覗くのもいいけど、生憎と給料日前で財布の中がちょっぴり寂しい。
よし今日は真っ直ぐ帰って、ゆっくりお風呂に浸かろう。そんなことを考えながら、電車に揺られ帰宅。
だいぶ日が長くなったなぁ…なんて、オレンジ色の夕焼けに手を翳しながら、自宅マンションの横にある小さな公園の前を通りかかると――
「おい、ナマエ!」
聞こえてきた、子供特有の甲高い声とその愛らしい声色に似合わぬ、偉そうな物言い。公園の中央にあるジャングルジムの一番上、案の定そこには白くまのぬいぐるみを抱いた子供が立っていた。
「ロー君、ただいま! ねえ、そんな所で手離してたら危ないよ?」
「おれにめいれいするな」
「命令じゃないよー。ロー君が怪我しちゃうと悲しいから、お姉ちゃんの言うこと聞いて欲しいな?」
「……わかった」
コクンと素直に頷いてからジャングルジムを下りたローが、タタタッと駆け寄って来る。
「ナマエがちゃんとまよわずかえってこれるか、あそこでみはってやってたんだ!」
「ふふっ、待っててくれたんだ? ありがとね」
クイッとスーツの裾を引っ張りながら、誇らしげに見上げてくる濃藍色の小さな頭。その少し癖のある短い髪の毛を、くしゃりと撫でてやれば。
はにかみながら、小脇に抱えた白くまに軽くパンチを当てる。……照れ隠しだろうか。
「おれがへやまでついてってやる」
控えめなフレンチネイルが施された指先を、小さな手のひらがキュッと握った。
「わあ、本当?うれしいな」
「さいきん、ヘンシツシャがでるって……かあさんがいってたからな」
お姫様をエスコートする王子様のように、堂々と胸を張って歩き出したロー。
お隣に住む小さなナイトからの、とびっきりの特別扱い。自然と緩む頬もそのままに、一歩前を行くローを追い越さないようゆっくりと歩を進めた。
わたしの小さな王子さまキミが大きくなって、可愛い彼女と登下校なんかしちゃうようになるまでは……どうかキミの"大好きなお姉さん"でいさせてね。
2011.3.24
2013.7.14修正
「LOVESICKxxx」の冬子さんへ捧げます