海賊 | ナノ
ほんのり甘くてあたたかい


イースト、ウエスト、サウス、そしてキャプテンの出身地でもあるノースブルー。この世界は四つの海に大きく分けられ、そこから更に国単位に分かれれば、地域ごとの慣習も実に様々だ。
ハートの海賊団も各海ごとの出身者が入り交じり、食事一つをとっても実に多彩である。

国や地域が違えば、同じ素材でも調理方法がガラッと変わることもある。
コックとして乗船しているわたしは、朝昼晩の食事とおやつ作り、そしてレシピの幅を広げるための試作などで、一日のほとんどを厨房で過ごしていた。


「ナマエー、今日は何作ってんの?」
「ん、パンプキンパイだよ」


昼食を終えてしばらく経ったこの時間、ベポは厨房に篭るわたしの元へとやって来る。もちろん今日のおやつ確認のためだ。
あわよくば一足先に味見を…と期待する彼の魂胆も分かった上で、おいでと手招きすると、巨体を揺らしながら嬉しそうに作業台の前にしゃがみ込んだ。


「甘くていい匂い!」
「前の島で安かったからね、まとめ買いしてたの」


カボチャはビタミンが豊富で、免疫力を高める働きがある。それに体にやさしい甘味は、トレーニングや船内作業を終えたクルーの疲れを取ってくれるだろう。
そう思い、今日は大量に買い込んだカボチャの一部でおやつのパイを作ることにした。


「この中身がないやつ、何?」


ベポの視線の先、作業台の上には焼き上がったパンプキンパイが並ぶ横で、中身がきれいに取り除かれたカボチャの皮もいくつか転がっている。
それを目敏く見つけたベポが、不思議そうに目を瞬かせながら小首を傾げた。


「ああ、ほらこれ見て。おもしろいでしょ?」
「あっ、顔になってる!」
「そうそう、穴を開けてランタン代わりに使うんだよ」


先日船大工から教えてもらった、彼の出身地のおもしろい風習――ハロウィン。その説明をベポにすると、黒くて真ん丸の目が途端にキラキラと輝き出す。


「ハロウィンパーティーとまではいかないけど、食堂のテーブルに飾ろうかと思って」
「楽しそう! おれも作ってみたい!」
「じゃあ、やってみる?」


そう言って、作業台に置いてあったナイフを渡せば。いそいそとつなぎの袖を捲り上げ、気合い十分なベポがカボチャと向き合う。その様子がおかしくて、くすくす笑っていると厨房の入り口から声がかかった。


「おまえら、何してんだ」
「キャプテン!」
「あ、お疲れさまです」


声のする方へ振り返ると、そこにはキャプテンの姿。片手に読みかけの分厚い医学書を持ったまま、ゆったりとこちらへ歩いて来る。
きっと読書の途中で喉が渇いたのだろう。そう思って一旦手にしていたカボチャを置いてから、コーヒーの準備に取り掛かった。


「……ジャック・オー・ランタンか」
「よく知ってますね、キャプテン」
「まぁな」
「ねーねーキャプテン! ハロウィンしようよ!」
「あ? 面倒くせェ」


淹れ終えたコーヒーを受け取りながら、おねだりモードに入ったベポをキャプテンが一蹴する。それでも簡単には諦めない白熊は、何だかんだでキャプテンが自分には甘いということをよく知っているのだと思う。


「お願い〜! おれ、準備も片付けもちゃんとするからー!」


じゃれつく白熊を片手であしらうキャプテンの眉間には、うっすらと皺が刻まれているものの、それは言うなればデフォルトのようなもので。
仕方ないな、とでも言いたげにため息を吐く様子からすると、多分あとほんのひと押しでベポに軍配が上がりそうだ。


「ねぇねぇ、キャプテーン! 一生のお願い〜!」
「おまえの一生のお願いはこれで何回目だ? ベポ」
「ふふ、たしか今年に入って四回目ですかね」
「あっ、ナマエのいじわるー!」


可愛いクルーのおねだりに負けて、"キャプテンの気まぐれ"という名の無茶振りがこちらへやって来るのも、時間の問題かもしれない。
そうなる前に今夜の夕食のメニューを組み直すとするか……なんて。未だキャプテンの首もとに鼻先をぐりぐり埋めるベポの姿を眺めながら、こっそり考えを巡らせることにしよう。



2013.11.6

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