海賊 | ナノ
微睡みの温度で


ローが、七武海入りした。ほかの海賊からは政府の狗だと揶揄され、表向きは丁重に扱ってくる海軍からもどこか白い目を向けられる、あの七武海になった。
その真意はローの脳内で次の一手とともにしっかりと、だが密やかに息づいているのだろう。いずれにせよわたしたちハートのクルーは、そんなローについていくだけだ。

きっとこれまでの航海以上に大変なこともあるだろう。海軍に狙われることがなくなったからといって、毎日平穏無事に過ごせるほどこの新世界の海は甘くなかった。
どんなことが起ころうとも、すぐに対処できるように得物の手入れだけは一日たりとも欠かしたことがない。

けれどもぽかぽかと暖かい春島の陽気に誘われて、ほんの少しだけ緊張が緩んでしまったのは仕方ないのかもしれない。
第一さっきまでベポの膨らんだお腹に凭れて昼寝をしていたロー自体、ひどくリラックスした様子だったのだから。


「ロー、寝癖ついてるよ」
「……あ?」


気ままに跳ねた髪の毛をがしがしと掻きながら、大きな欠伸をしたローが眠たそうに目を擦る。寝起きのせいで少しだけぼんやりとしたローは、正直なところ年齢よりも幼く見える。口に出せば拗ねるだろうから、あえて言わないけれど。


「あっまたそうやって帽子でごまかす!」


指摘した寝癖を隠すためか、ごそごそと身動いだローが傍らに転がっていたもこもこの帽子を目深にかぶり直す。


「……うるせェ」
「髪の毛が伸びてきたから余計に跳ねるんだよ、切ってあげる」
「面倒くせェ……」
「ローは目瞑って座ってるだけでいいから! ほら、早く早く!」
「……」


気だるげなローを急かしながら、わたしはハサミやらケープやらの散髪グッズを取りに船内へと戻る。船のみんなが航海中にいつでも散髪できるように、道具だけは一通り揃っているのだ。
基本的によく使うのは手先の器用なシャチか、ローの伸びきった髪の毛を見かねたわたしくらいだけど。


「お待たせー」
「さっさとしろ」
「はいはい」


ローの髪の毛はクセっ毛だ。切り方を間違えると思わぬ方向に毛先が跳ねたりするので、ハサミを入れる角度にはなかなか気を遣う。そしてそんなクセが分かるくらいには、ローのそばで過ごしてきた時間は長い。

ハサミと一緒に持ってきた櫛を丁寧に動かして、髪の毛をといていく。硬そうに見えるのに、実際は意外と柔らかい。指先に触れる慣れ親しんだ感触に、頬が緩むのを感じた。


「……余計に眠くなってくるな」
「ふふ」


まだ寝ぼけ眼のローは髪の毛を触られて、よりいっそう眠気が襲ってきているみたいだ。胡座をかいたままうつらうつらする濃藍色のつむじを見つめていたら、腹の底からせり上がってくるあたたかい何かに、胸がいっぱいになった。


「ねえ、ロー」
「……なんだ」
「切った髪の毛が伸びてくる前には、また船に戻ってきてね」
「……ああ、分かってる」



微睡みの温度で



夢うつつで小さく頷くローに、わたしの両手じゃ抱えきれないほどのはち切れそうな愛おしさを感じながら、またゆっくりと髪をとく手を動かした。今日はいつもよりもほんの数ミリ長めに切ろうかな、なんて考えてしまったのはローには内緒だ。



title / hmr
2012.12.22

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