キャプテンの頭の中にはわたしたちクルーが想像もつかないような、壮大な構想が在るのだと思う。それを実現するための一手二手先……いや、あの人ならきっと十手くらい先を読んでの言動の数々に、わたしたちはいつも驚かされている。
キャプテンは、その手の内すべてをわたしたちに教えてはくれない。わずかに与えられる情報を自分なりに咀嚼しながら、わたしたちはあの大きな背中を必死に追う。取り零しがないよう必死に耳を澄まし、一挙手一投足見逃すことがないように、ただひたすらじっとキャプテンを見つめる。
「キャプテン、本当に船を離れるんですか?」
「ああ、さっきおまえらに言った通りだ」
わたしたちの想定なんて軽く飛び越えた先を、キャプテンは前だけ見つめて歩いている。そんなこと、分かりきっていたはずなのに。わたしはまた性懲りもなく驚かされて、上手く回らない口を必死に動かしてその真意をはかろうとする。キャプテンに縋ろうとするのだ。
「……キャプテンがパンクハザードへ行くのは分かりました、でもっ……」
「ナマエ、おまえは……おまえらは、おれがいちいち説明して手を引いてやらないと歩けねェのか?」
「……っ…」
そうじゃないだろう、と暗に言っているようなキャプテンの言葉と、すべて見透かすような力強い眼差しが胸に突き刺さる。ああ、やっぱりこの人には敵わない。わたしはいつか、キャプテンの隣に立つのに相応しい"わたし"になれる日が来るんだろうか。
「おれはおまえらを信じてる」
「キャプ、テン……」
「なあナマエ、次船へ帰って来た時は……美味いメシを用意しといてくれよ」
「っ、はい…!」
いい子だ、とわたしの頭を撫でながら静かに笑うキャプテンの、子供扱いするみたいな手つきがほんの少し悔しくて。でもまだそれを嬉しく感じる気持ちの方が勝ってしまうわたし。
そんなわたしをいつも導いてくれる大きな手のひら、広い背中にはまだまだ届かないけれど。でも次にキャプテンに会えた時、またこうして頭を撫でてもらえるように。
あなたが帰ってくる此処で、わたしは今日も二本の足で踏ん張っています2012.10.23