海賊団の船長なんてものがどれ程の責任やプレッシャー、苦労を背負っているかなんて、経験したことのないわたしには到底分からない。
ただ、この船に乗る誰よりも近くでローを見ているわたしは、並大抵の精神力では務まらない程に大変なのだということだけは、漠然と理解していた。
「ロー」
「っ、ナマエ……」
「ロー、大丈夫だよ」
「ナマエ……っく…ナマエ」
「わたしはここに居るから、ね? ロー……」
先ほどまでの行為の痕が残るベッドの上。座るわたしのお腹に顔を埋めるように、ローが大きな身体を縮こまらせる。その身体は微かに震えていて、わたしの腰を捉えて離さない指先は、ひどく冷たかった。
たとえば、わたしが街で賊に連れ去られそうになったとき。
たとえば、戦闘で誰かが大きな痛手を負ったとき。
たとえば、ローの目の前で仲間の心電図が平らな線を描いたとき。
そんな日の夜は、ローは泣きそうな顔をしてわたしを手荒く抱く。そしてわたしが何も言えず、何も出来ずに、ただ吐き出される欲望を受け止めた後……決まって捨てられた子猫のように、震えながらわたしを抱きしめる。
いや、抱きしめるというより縋りつく、といった表現の方が近いのかもしれない。
普段みんなの前では、強気で自信に満ちているロー。かと言って己を過信しているわけではなく、先の先の裏まで緻密に張り巡らせた思考は、きっと不安定要素を嫌う彼の性格故なのだと思う。
そんな彼の足下を崩すような出来事に遭遇してしまったとき。わたしはただただ震えるローの背中を撫で、柔らかな髪の毛に指を絡ませながら、眠りに就くまでそばに居続けることしか出来ない。
「ロー…大好きよ、わたしはずっと此処に居るから……ねぇ顔を上げて?」
「ナマエ……」
顔を上げたローはやっぱり今にも泣き出しそうな表情で、小さく笑った。
生まれ変わったらまた笑い方の下手なあなたでありますように
そうしたら、またずっとこうやって側にいられるね。
title / joy
2010.8.1
2013.7.21修正
「Midnight Party」のミジュさんへ捧げます