小さな頃から繰り返し見る夢の中――いつの時代、どの場所に生まれたとしても、わたしはいつも同じ男と出逢う。漆黒とはまた違う、夜の海のような深い色をした短い髪と、灰色がかった鋭い瞳を持つ男。
ある時は砂漠の国の煌びやかな王宮、またある時は疫病が蔓延する貧しい国で。わたしとその男は必ず出逢い、恋に落ちるのだ。
お互いの身分や立場はいつも違う。周囲に祝福される仲睦まじい幼馴染の時もあれば、容赦なく引き裂かれる兄妹の時もあった。
変わらないのは、いつも互いの肌の温もりを知ったその直後にどちらかが命を落とす、というシナリオだけ。
名も知らぬ、ましてや存在すらしない夢の中の男に仄かな恋慕を抱き始めたのはいつからだったろうか。家族にも友達にも打ち明けたことのない、秘密の想い人。
彼とひと時の逢瀬を重ねるため、今日もわたしは深い深い夢の世界へ――
いつか記憶からこぼれおちるとしてもだいじょうぶだよ「船長、新しい点滴持ってきました」
「あァ、そこに置いておけ」
シューシューと空気が漏れるような音が静かな部屋に響く。音の正体を辿れば、いくつものチューブが青白い顔の女と四角く無機質な器具とを繋いでいた。
「ずいぶん伸びましたね、ナマエの髪」
「そろそろ、切ってやるか」
「そうですね、こうなる前は綺麗好きでしたもんね」
「……おい」
「!……すいません……失礼します」
――パタン
扉の閉まる音が、静かな空間へ波紋を広げるように反響した。
白いシーツに広がる細い髪を一束掬い上げ、そっと唇を寄せる"船長"と呼ばれた男。刺青の彫られた骨ばった指が、不気味なくらいに真っ白な頬を優しく撫でていく。
「なァナマエ、もうすぐ新しい島につく。今度は何が欲しい? 新しい髪飾りか? それともおまえの好きなワインを買って来ようか」
彼にとって、静かに瞳を閉じる目の前の女は"過去"に生きるでもなく、"夢"に生きるでもない、今この瞬間を共に刻んでいきたいと思える――たった一人の相手だ。
たとえガラス玉のように澄んだその瞳に己の姿が映らなくとも、他愛無い問いかけに返事がなかろうとも。
「……起きたら、何をしようか?」
最先端の技術でもって、生き延ばす命の灯火。暗闇を照らすその灯りを繋ぎとめる、無機質な箱――そこに並ぶスイッチに手をかけて、ローは柔らかな笑みを浮かべた。
どうせまた輪廻が僕らを引き合わせるtitle / もうあきた
2011.6.28