海賊 | ナノ
その無垢を抱いた


「何やってんだ」
「……キャプテン」


海面を浮上中に襲ってきた海賊船を海へ沈めたのち、足早に食糧庫へ向かえば。白いつなぎを真っ赤に染めたナマエが、何処から持ち出したのか古い型のサーベルを手に佇んでいた。


怪我はないかと頬、肩、腕と、滴る赤を辿って順に追っていく。そうして行き着いた刃先に目をやると。錆びつき切れ味を失くした刃は、生首になれなかった男の首筋に深く刺さったまま抜けなくなっていた。


――女の力で首を斬り落とすというのは実に難儀だ。ましてや、その道具がこんなにも錆びついたサーベルでは。

目の当たりにした光景に、そんな当たり前のことをあらためて実感する。そして薄汚い血が固まってしまう前に、強く握りしめられたナマエの手のひらをゆっくりと開いた。


カランと音を立て床に落ちたサーベルに構うことなく、放心したままの小さな身体を胸に抱き込む。

ぼんやりと焦点の合わない目で見上げてくるナマエの頬は赤く汚れていて。包み込んだ手でごしごしと擦れば、やっとその瞳に力が戻ってきた。


「キャプテン、お帰りなさい」
「ああ……ただいま、ナマエ」
「……勝った?」
「もちろんだ」


言いながら胸板に額を擦り付けてくる頭を撫で、シャワー室へ促せば素直について来るナマエ。きゅっと握ってくる小さな手のひらを、さらに力を込めて握り返せば――わずかに伝わってきた振動。


「……泣いてるのか?」
「ううん。キャプテンの邪魔する奴、やっつけたよ?わたしも戦えたの、」


えらいでしょう?とはにかんだように笑う、ナマエの瞳に一切の濁りはない。くすくすと小さな笑みを零すナマエの表情は、どこまでも清らかで、どこまでも真っ白だ。


「……おまえはそんなことしなくていい」
「どうして? キャプテン」
「ナマエ、おれはおまえを戦闘員としてこの船に乗せてるわけじゃねェ」
「でも、食糧を……この船のキャプテンのモノを奪ろうとしたよ?」
「……ああ、そうだな」
「わたし、キャプテンの役に立ってない?」
「そんなことはねェ」


深く息を吐き出しながら、その小さな身体を抱きしめることしか出来ないおれ。ナマエ、おまえの目にはどんな風に映っているのだろう。

此処――おれのそばにいる限り、おまえはその白い手を赤く汚し続ける。かと言って今さら手放してやれそうもない。

だからただこうして、



その無垢を抱いた



title / hmr
2011.6.3

戻る | *前 | 次#
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -