海賊 | ナノ
仕留めた愛は毎晩水槽で泳がせます


※人魚の設定に関しては諸々捏造です





仄暗く冷たい潜水艦の奥深く、
重い鉄の扉の向こうはキャプテンだけの秘密の――






「いい子にしてたか?」
「ロー! ……ねえ、いつわたしをみんなのところへ帰してくれるの?」


――ぱしゃん、

水槽のふちに腰掛けていた女が、数時間ぶりに姿を見せた男に気付いて声を上げた。薄紅色の鱗が隙間なく並ぶしなやかな下半身、その先にある二股の尾鰭は不安げにゆらりゆらりと揺れている。


「ナマエ」
「……はい」


静かに手を伸ばしてくるローの首へ腕を絡め、唇を寄せるナマエ。覗かせた赤い舌で控えめに薄い唇をなぞれば、教えた通りの仕草にローが満足げに口角を上げた。


「いい子だ」


その深海のようなともすれば冷たい印象を与える瞳に、穏やかな色を滲ませるロー。交差する互いの視線はそのままに、くちゅりと粘着質な音を立て舌を絡ませる。

色鮮やかな尾鰭を伝い、ポタポタと床に染みる水滴。ナマエの濡れた身体を抱きとめるローは尚も彼女の酸素を奪い続ける。

縺れあうように追いかけあうように、片時も離れることのない粘膜は水音を増すとともに強張るナマエの身体を溶かしていった。


「……んっ…ぅ……」


――ツ、と名残惜しそうにナマエとローの間を銀糸が繋ぐ。恥ずかしげに顔を背けるナマエの頬に口づけを一つ贈ってから、ローは水槽を離れた。

そしてギュッとしがみつく細い身体を軽々抱き上げ、部屋の隅にあるベッドへ腰を下ろすと、後ろから抱き込むように刺青だらけの腕を巻きつける。


「あ……」


栗色の艶髪から覗く襟足に冷たい唇が触れる。思わず首を竦めれば、今度はなだらかな曲線を描く肩先に咲き誇る紅い華。肩先を滑る手入れの行き届いた長い髪は、白く丸みを帯びた乳房を悪戯に隠していた。


「ナマエ、おまえはもうおれのものだ。此処から出ることは許さねェ」
「そんな! わたしは、ただ……あっ……」


ローの骨ばった大きな手が、髪の毛を掻き分けるようにして乳房の先を飾る小さな果実を探り当てた。

だがすぐに触れることはせず、しばらくは歪に形を変える膨らみの重量感と柔らかな感触を確かめるだけ。しかし意志を持って動く指先と手のひらは、確実にナマエを追い詰めていく。

手枷足枷など何も無いに等しいこの部屋で、ただただローの腕だけがナマエの枷となる。


「……んっ」


ローの腕の中で身を捩ったナマエが小さく呻く。声を上げたところで送られる刺激が止むことは決してないのだが。そのささやかな抵抗こそが、人魚としてのナマエの理性を繋ぎ止めるただ一つの手段だった。


「……ロー、ダメ。人間の男と交わっちゃ、いけない……」
「それは聞けねェ話だな」


島を出てから毎夜繰り返される行為に、今夜も律儀に異を唱えるナマエ。彼女を支える僅かばかりの理性も、夜が更ける頃にはすっかり途切れてしまうことは明白なのだが…。


「や、ロー…お願い……」
「泣くな、ナマエ。滅茶苦茶にしたくなるだろう?」


ぽろりと零れ落ちる真珠のような涙を啜りながらローが笑みを深くする。それは愛おしくて愛おしくて仕方ない、だから閉じ込めて離さない――そんな矛盾ともとれるような純真からの笑みだった。


「……うぅっ…ロー…」
「やっと手に入れた……絶対離さねェ」
「あっ…ん……」


もうすっかりローの意のままに染め上げられたナマエの身体は、仲間の元へは戻れぬほどに穢れてしまった。

けれども真綿に包むように柔らかく、しかし決して逃げ場を与えぬローの愛情に、いつからか依存している自身にもナマエは気付いていた。


ローの愛撫にシーツの波間で身体をくねらせるナマエは、今日も果てのない深海に溺れていく。



2011.1.18
「scent」のまり緒さんへ捧げます

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