海賊 | ナノ
駆け出した想いを削ぐ嘘吐きな唇


海賊船に女なんて、と奇異の目で見られることなんてすっかり慣れっこ。別にもともと他人の目なんて気にする方じゃないし、言いたい奴には言わせておけばいい。

ひとつの場所に留まることを知らない根無し草、自由気ままな海賊。だって、わたしほどこの単語にぴったり嵌る人間は居ないんじゃないかって、そう思うから。


「ナマエ、町へは下りねェのか」
「……キャプテン。ええ、何となく気分じゃないから」


現在ハートの海賊団の船は小さな秋島へ停泊中。ログが貯まらないと出発できないのは分かっているが、同じ島に三日もいれば出歩くのもさすがに飽きてくる。

見張り番以外は出払った船内でゆっくり読書でも、なんて思っていると……いつの間にやら気配なく現れたキャプテン。絡みついてきた刺青だらけの腕を視界に捉えながら、心の中だけで小さくため息を吐いた。


「キャプテンは飲みに行かないんですか?」
「ナマエが行かねェんなら、行っても仕方ねェ」
「あはは、何ですかそれ」


後ろから覆い被さるようにして肩口へ顔を埋めるキャプテン。そのふわふわの帽子を撫でながら笑えば、拘束する腕の力が一際強くなった。


「……分かってるくせに嫌な女だな、ナマエは」


咎めるというよりは拗ねたように呟いたキャプテンの、ゴツゴツとした大きな手が我が物顔でわたしの身体を這っていく。もうすっかり慣れ親しんだ愛撫に惰性のようにずるりと引き出される快感。

悦び反応を示す身体とは裏腹に頭の中はひどく冷静で、的確にわたしのイイところを刺激していくキャプテンの指先をどこか醒めた目で見つめていた。


――最初はほんの好奇心だった。世間で騒がれているルーキーの船に乗ることは、何となくわたしのプライドをくすぐった。

そして自信家で賢く強いキャプテンと、些細な仕草や視線、言葉を交して探り合う、男と女の駆け引きは楽しい。こんなにイイ男にわたしは求められている……その事実が、わたしの自尊心を満たしていく感覚。手軽な興奮。


けれど一度満ち足りてしまえば、飽和状態に陥ったソコは途端に無感動の色褪せた場所へと姿を変える。甘く酔わせるはずの言葉も指先も、すっかり白けて寒々しいだけ。


「ナマエ、愛してる……」
「ふふ…ありがとう、キャプテン」
「……愛してるとは言わねェんだな、おまえは」
「……ねぇロー、来て?」


静かに眉を顰めるキャプテンと、そんな彼に微笑みかけるわたし。ぐにゃりと歪む表情に、少しだけ欲情した。



駆け出した想いを削ぐ嘘吐きな




2010.10.15
2013.7.24修正
素敵企画「FAKE×FAKE」様へ提出

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