「……じゃあ、ローはわたしのことなんて遊びだったってこと…?」
「女を抱くのに遊びも本気もねェだろ」
こじんまりとしたカフェのオープンテラス。テーブルの上にはわたしが注文したワッフルのバニラアイス添えプレートと、ローが注文したブラックコーヒー。
手を付けられることなく放置されたバニラアイスはどろりと溶けてすでに原形を留めていなかった。まるでローとわたしのようだと、そう思った。
ナマエが暮らすこの秋島はログが貯まるまでに約1ヶ月。夏と冬の丁度中間くらいの程よい気候に、そこそこ栄えた小さな島。
海軍の駐屯所が無いことから、訪れた海賊たちは羽伸ばしとばかりに歓楽街でお金を落としていく。ある意味そのお陰で栄えてると言っても過言ではない。
そんな島で生まれ育ったナマエだからこそ、刺激のない暮らしの中でたまに見かける"海賊"という人種は、恐れの対象であると同時にどこか心を惹きつけられる魅力を持っていた。
――そう、億越えルーキーと名高いこのトラファルガー・ローという人物も然り。
ひょんなことから彼と出会ったナマエが、その女慣れしたスマートな態度や耳触りのいい言葉たちに酔わされるのなんて…ローからすれば赤子の手を捻るより簡単なことだったのかもしれない。
そして、そんなローの口から唐突に告げられた「明日出航する」という言葉は、何度も一緒に夜を明かした男女の間で交わされるものとしては、いささか素っ気ないと言える。
信じられない、といった様子のナマエの表情や冒頭のセリフも無理はないだろう。
「そんな……」
「おれはおまえを連れてくつもりなんて端からねェ。海賊船に女なんて面倒なだけだ」
ふぅーと吸っていた煙草の煙を吐き出しながら、心底興味が無さそうにローが言う。思わず俯けば、すっかり小さくなっていた煙草の先っぽがジュッと音を立てて、どろどろに溶けたバニラアイスに埋もれるのが見えた。
あの日の出会いは偶然なんかではなく必然、運命だったのだ。この小さな島のつまらない日常からわたしを連れ出してくれるのがローなのだと……何度も彼に抱かれながらそう思っていた。
そんなおめでたい考えに浮かれきっていた自分自身が本当に情けない。
「……っ…」
「あァそうだ、どうしてもおまえが一緒に来てェってんなら……船の奴らの性欲処理用に乗るか?」
そうしたらおれももう少し楽しめるしな、なんてニヤリと笑うローの顔が滲む視界の中でどんどんとぼやけて歪んでいった。
「……最低…っ」
「フフ、そうかよ。なァナマエ、良かったじゃねェか。おれが最低だって言うんなら、おまえはもうこれ以上悪い男には出会わねェだろうよ」
物は考えようだ、そうだろ?なんて優しい手付きで頬を撫でながらわたしの名前を甘く囁くローは本当に悪魔のようだと思った。
けれどそんな悪魔に魂も何もかも持って行かれてしまいそうな自分、とことん堕ちてしまいたいと願う自分、がいる。
レディ、世界は逆さまにみるものだ
2010.10.11
素敵企画「FAKE×FAKE」様へ提出