海賊 | ナノ
可愛さ故に


うちの船長は巷じゃ億越えルーキーなんて言われて騒がれているけど、実際はただの解剖オタクで過保護な変人だ。

うん、ほら見て。今も上陸した島へ意気揚揚と出掛けようとするわたしの腕を掴んで離さない。言うセリフはもう耳にタコが出来るほど繰り返されてきた、コレ。


「おいナマエ、何だその破廉恥な格好は! つなぎはどうした、つなぎは!」
「……いやせっかくの大きな町だし、お洒落して買い物とか行きたいんですけど」
「そんな太ももが剥き出しになるような扇情的な格好は断じて許さんぞ」
「はぁ? このくらい普通だと思いますけどー」


船長に見つかる前にさっさと町へ下りようと思ったのに、あぁ面倒くさい。わざと大きくため息を吐きながら反論してみるものの、こちらの反抗的な態度をものともしない船長のマシンガントークは続く。


「ダメだダメだ! おまえそんな短いスカート、こうやって、ほら! こうやってしたらパンツ見えちまうだろうが!」
「ちょっ! 覗き込まないで下さいよ!! ていうかそんな不審な行動取る人いたら張り倒すから安心して、船長」


死の外科医ともあろう人が地べたにしゃがみ込んで、なんて格好をしているんだ。あぁ情けない。でもこんな人でも普段は頼れる船長なのだ、一応。

とりあえず心配は不要なのだと冷静に伝えよう、そう思って窘めるように船長の肩に手を置けば――


「いやでも、ペンギンがこの島は治安が悪いと……」
「船長、嘘吐かないで下さい。さっきペンギンさんには一人歩きしても大丈夫って直接聞きました」
「……チッ…ペンギンの奴、余計なことを」


嘘を吐いてまで引き留めようとする船長の執念には、ある意味感服する。こうなってしまうと、もうわたし一人の手には負えない。

まともな感性を持つ紳士、またはPENGUIN帽子の男を、この非生産的なやり取りを終了させるために、誰かここへ投入してくれないだろうか。ああ神様、お願いします。


「……何だ、まだ居たのか? ナマエ」
「あっペンギンさん! いいところに!」


船長の呪縛から逃れるべくブツブツ召喚を試みていると、可哀想なわたしの願いが天に届いたのかタイミングよく船内から現れたペンギンさん。

わたしの腕を掴んで離そうとしない船長の姿に全てを察したのか、ため息を一つ吐いてから一言。


「船長、ナマエも子供じゃないんです。少しくらい好きにさせてやっても……」
「おまっ、ペンギン! 放任主義気取って可愛いナマエの身に何か起きたらどうすんだ!」


ていうかまぁ、心配してくれるのは素直に嬉しい。度の過ぎた過保護はうんざりだし、親バカ(船長バカ?)っていうのかな……大事にされすぎてたまに恥ずかしくはなるけど。

何だかんだで、この人に憧れて海賊になったようなもんだしね。……あーもう、しょうがないなぁ。


「じゃあ船長、そんなに心配なら一緒に行きますか?」
「ナマエ……!」
「その代わり、次の冬島用の洋服買って下さいね!」
「フフ、仕方ねェな。おれがナマエに似合うやつを選んでやる」


腕を絡めながら上目遣いで可愛く強請れば、さっきまで眉間に刻まれていた深い皺はどこへやら。途端にご機嫌になった船長が、いつもの調子を取り戻してニヤリと笑う。

そうそう、やっぱり船長はそうやって自信満々に笑っててくれないとね!


「……まぁ何はともあれ、話が落ち着いてよかった。船長、くれぐれも騒ぎは起こさないで下さいよ?」
「フン、おれを誰だと思ってんだペンギン」
「ペンギンさん、じゃー行ってきます!」
「あぁ、楽しんで来い」







(おいてめェ、今コイツのスカートの中覗こうとしただろ!)
(……は? な、なんだアンタ…)
(せせせ船長! 誤解ですよ!! 騒ぎ起こしちゃダメですって!)



2010.10.11
2013.7.24修正

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