海賊 | ナノ
貴方のその足りない感じが好き


ああ、まただ……と思う。深夜、アルコールと香水が混じりあったような匂いを漂わせながら部屋へ入って来たローの姿に、仕方なくベッドの上に身体を起こした。


フラフラと覚束ない足取りで近づいて来ると、倒れ込むようにその大きな身体を凭れかけてくるロー。その広い背にそっと腕を回せば、アルコールのせいか普段よりもほんの少しだけ温かい手のひらを、寝間着の裾から忍ばせてくる。


――本当に、仕方のない人。快感を引きずり出すように、わたしの身体を這っていくローの手のひらを感じながら、心の中だけでこっそりため息を吐いた。


わたしが半ば強引にローの船に乗せられたのは、いつだったろうか。そんな記憶さえ薄れてしまうほどの時間を二人は過ごし、こうして肌を重ねてきた回数も数え切れない。

けれども、未だにローが抱く女はわたし一人ではない。いや、正確に言うなら、ローはいつも他の女を抱いた後にわたしを抱く。


「ナマエ」


そう、こうやって耳元で甘く掠れた声でわたしの名前を呼んだとしても……


「んっ、ロー……」
「……ナマエ、愛してる」


一度だけローに訊ねたことがある。何故他の女の人を抱くのか、と。すると、泣き出しそうなほどに歪んだ笑みを浮かべて、ローは言った。


『愛してるからだ……おまえだけを』


返ってきた答えは、禅問答のように要領を得ないよく分からぬもので、到底納得もできるものではなかった。でも、それでもわたしは――


腹の底から愛しているからこそ、他の女を抱きでもしなければ正気が保てねェ……そう言って、自嘲気味に唇を歪ませることしか出来ないローを、愛し方も愛され方も知らないまま大人になってしまったローを――

愛しいと、思ってしまった。



title / joy
2010.9.27
2013.7.21修正

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