「……ふぅ、あっつー」
お風呂上がりの火照った身体を落ち着かせようと、部屋へ戻る途中でお水を貰いに食堂へと向かう。
食堂へ近付けば、中からはぼんやり明かりが漏れていてガサゴソ物音がするから、きっとコックさんが明日の仕込みでもしているんだろう……なんて思いながら扉に手をかけた。
「……っ!」
「?……あァ、ナマエか」
そこに居たのは、キッチンの戸棚を漁るキャプテン。まさかキャプテンが食事時以外にこんな所に居るとは予想もしていなくて、咄嗟に反応が返せなかった。
と言うよりも、目の前に佇むキャプテンの格好に驚いて身体が固まってしまった……というほうが近いのかもしれない。
「ちょ、キャプテン……服、着て下さいよっ」
「あ? ……シャワー浴びた後だから暑ィんだよ」
しれっとわたしから目を逸らしたキャプテンが、戸棚に手を突っ込みながら怠そうに言う。しかしながらその格好は、いつものジーンズに上半身は裸。濡れた藍色の髪からはポタポタと水滴が落ちて、汗ばんだ肌を伝っている。
「……で? おまえはこんな時間にそんな格好で何してんだ」
それはこっちのセリフです、と頭ではすかさずツッコミを入れるわたしだったけど……その普段とは違う姿に、漏れ出す色気に、囃し立てるような心音がうるさくて上手く返事が出来ない。
首にかけたタオルで無造作に頭をかき混ぜながら、こちらへ向き直ったキャプテンが少し眉を顰めながら口を開いた。
「んな格好で船内をうろつくな」
「え?」
「野郎ばっかの船なんだからな、自覚を持てってことだ」
いつの間にか目の前まで来ていたキャプテン。その視線を辿った先には、キャミソールにショートパンツ姿のわたし。……なるほど。暑いし、部屋へ戻るだけだからと薄着だったのを忘れていた。キャプテンの言うことはもっともだ。
「……すいません」
「いや、分かればいい」
「……でも、キャプテンも何か着て下さいよ。目のやり場に……困ります」
「おれは男だからいいんだよ。何だ、照れてんのか?」
「そっ、そういうんじゃなくて……」
男の人の裸を見てドキドキしているなんて、仮にも海賊船に乗っていて今更というか……らしくない反応だとは、自分でも分かっている。でもそれをあえて指摘されたことで、余計にわたしの顔は真っ赤になってしまっただろう。
思わず俯いてしまった頭上で、キャプテンがフッと笑う気配がした。――と思った瞬間、わしゃわしゃと乱暴に頭をシェイクされて、何がなんだか分からなくなってしまう。
「ちゃんと拭かねェと、風邪ひくぞ」
聞いたこともないような穏やかな声色が耳に届いたことで、キャプテンがわたしの髪の毛を拭いてくれたんだと気付いた。
今ここで顔を上げたら、キャプテンはその瞳にわたしを映してくれるだろうか。
今ここで手を伸ばしたら、キャプテンはこの手を掴んでくれるんだろうか。
今ここで好きだと告げれば、キャプテンはもう少しこうして居てくれるのかな。
「……っ……きゃ、ぷ」
「ナマエ」
初めて頬に触れたキャプテンのゴツゴツとした手の感触を感じながら、恐る恐る視線をキャプテンと絡める。
そばよりもっとちかくにおいで好き、って早く伝えたいような。伝えてしまうのが勿体ないような。
そんなドキドキが胸をいっぱいにする。
title / 人間、きらい
2010.8.20
2013.7.21修正
「スパンコール・ヴァージン!」のユーキさんへ捧げます