冷蔵日記


 最近冷蔵庫がとても煩くて仕方がありません。前を通る度に激しいモーター音を狭い1DKに響かせるので、きっと逆恨みしているのです。以前に乱暴に扱ったことを根に持ち文句を垂れているのです。でも、たとえ私に足で戸を閉められてもあいつには文句を言う権利はありません。それなのにあいつは生意気にも、ずっと戸を開けていると怒鳴ります。その怒鳴り声が私の脳味噌と心臓をおかしくさせ、今夜も眠れないのです。


 今日もあいつは怒鳴っています。もうかれこれ49時間23分は経ちます。私は無意識の内にあいつを怒らせるようなことをしたようで、その罰として睡眠を奪われています。悪いことをすれば殴られたり、髪を引っ張られるのは当然の報いです。でもその点あいつは暴力を振るってきません。実は私が勘違いしているだけで、本当はとても心優しいやつなのかもしれません。どうしてこんな私にそんな優しく振舞うのでしょうか、ちょっと好きになりそうです。


 あいつが怒っている理由がわかりました。私は大変なことをしでかしていました、これはあいつが怒るはずです。なんと大馬鹿者の私は、3日間ずっと戸を開けっ放しにしていたのです。その失態では済まされない自分の重い罪に気づいた瞬間、私はただひたすらに謝り倒しました。泣きながら、叫ぶように、マシーンのように何度も何度も頭を地面に打ちつけ額の皮が剥けるまで土下座を繰り返しました。その日の夜は4日振りのアームカットをちょっぴりしてしまいました。


 聞いて下さい! 私やりました! 初めて抵抗しました、反抗してやりました! あいつがまたもやずっと怒鳴り続けており、気でも違ってしまいそうで、あいつのせいで私は気違いにされてしまうのかと考えるととても腹が立ったのであいつを力一杯蹴りつけてやったのです。そしたらなんと! あいつが怒鳴るのを辞めたのです! ざまあみろ!!! 私は勝ちました! とうとうあいつに打ち勝ったのです! 悲劇のヒロインはもうお終いです! ざまあみろ!!!! これで今日こそやっと静かに眠れます。おやすみなさい。


 昨日からあいつの様子がおかしいのです。私が怒鳴りつけても、蹴りつけても、戸を開け放しておいても、ひたすらに謝っても反応がないのです。とても心配になり、優しく声をかけても返事を一切してくれません。また怒っており私を不安にさせるために黙り込んでいるのかとも思い、ご機嫌を取るため猫撫で声で擦り寄ってみてもピクリともしてくれないです。こうすればまたいつものように怒鳴ってくれるかと試しに戸を開けた時に分かったのですが、普段なら明るいはずの中は真っ暗で蒸し暑くなっていました。外が熱い時は頻繁にあるのですが、中が暑かった事は今まで一度もありませんでした。このままではいけないと思い、冷やすため水道水を沢山かけて看病をしても容態は一向によくなりません。水道水がこの真夏のせいでぬるくなっていてちっとも冷えてくれません。時間が経つに連れて、どんどんあいつは熱くなっていきます。
 私は気が気ではなく夜も眠れません。


2012/5/13