死体の処理法


 死体は非常に処理が面倒だ。切るにも煮るにも放って置くのにも向かないときた。普通の料理包丁を使おうにも,肉の中を通るかたい骨が邪魔で切断することは非常に難しい。一遍に煮ると臭いが強烈である。放って置いても腐乱死体になり尚更性質が悪い。
 だが,私は良い方法を思いついたのである。
 まずは,死体を足の親指サイズに切断し,指などの細かい部分は出刃包丁で切る。途中骨で刃が止まってしまっても出刃包丁を高く振り上げ,力を込め降り下ろす。すると骨は砕け肉を貫通しまな板に突き当たりドンッと鈍い音を立てる。
 足と腕と胴体は少々大きいので,チェーンソーで根気よく根性で切り刻む。大量の返り血を浴び拭い拭い更に切り刻む。
 下ごしらえに歯と爪をペンチで全て引き抜き,目玉と脳味噌と臓器類を器にうつしておく。脳味噌は崩れない様に慎重に。腸は長いのでぶつ切りに小分けしてゆく。目玉はむにむにと弾力があり触り心地が良く,取り出す時の指先に伝わる感触と,神経をブチブチと断裂させる感覚が堪らない。ゾクリと鳥肌が立ち口角が無意識につり上がる。ああ、堪らない……。
 そして次に,作業用の寸胴鍋を用意する。ここに先程親指サイズに解体した死体を全て放り込む。 このまま煮ると臭いが出るので,トマトピューレと多数の種類豊富な香料を投入してから煮る。
 煮詰め終わるまでの間,もう一つの死体の処理法を紹介しよう。
 先程の死体同様解体していくが,今度は部位によって切り分ける。頭,腕,肩,胸,腹,股関,太もも,脛,足とざっくりとチェーンソーでバラす。
 少々大掛かりではあるが,マグロなどの大型肉食魚などを冷凍できる業務用冷蔵庫で凍らせる。
 しっかり芯までカチンコチンに凍らせたらチッパーで砕いて粉末化させる。それを白米に振りかければ完成である。
 煮込んだ死体も皿に盛り付ければ今晩の夕食は出来上がる。早速スプーンを手に取り,料理を口に運ぶ。人肉トマトスープは骨ごと煮たためにガリガリと石を食べたような触感に苦戦するも,味は風味の効いた塩コショウがアクセントになりまぁまぁ美味しい。次は人肉ふりかけご飯。味こそ微妙だが,感覚で言えばマグロのフレークのようであると思う。
 しかし,流石は大の大人二人分。三分の一ほど間食ところで胃のキリキリとした痛みと吐き気に気分は最悪だ。
 私はトイレに駆け込み,便器の前にひざまづく。口を親から餌を貰う時の雛のように開き,喉奥に指を突っ込む。胃から食道にかけて全てが這い上がってくるかのような爽快なほどの吐き気に咽攻め立てられる。それに反することなく従い,口からどろどろとして独特の酸味臭のある吐瀉物を便器に吐き出す。吐き出す瞬間は目玉が裏っ返り飛び出てきそうになるので,溢し落とさぬように瞼をぎゅっと閉じ蓋をする。それを何度も,何度も繰り返す。
 胃の中が空になったころには手は液体でカピカピになり,便器に弾かれ飛び散った液体がTシャツや髪や顔中を汚していた。
 酸味臭がキツいが,拭くのも面倒でそのままキッチンに戻りもう一度冷めた料理を茶碗に注ぐ。胃の中全てを吐き出したら私自身も驚くほどに,あの気持ち悪さが嘘のようにすっきりとして飯をがっつけるほどまでになっていた。
 これはしめた。残りの夕食を大口で食べ始める。先程よりも量が多かったせいか時間がかかってしまうが,やっとのことで食べ終える。腹が限界で,針でつつけば風船のように破裂してしまうのではないかと思える。
 その重たい腹を抱えながら,途中で上からも下からも漏らさぬように踏ん張りながらトイレへ向かう。
 トイレにつけば先程と同じ事を繰り返す。
「うぉぇっ」
 びちびちびちゃびちゃ。
「ぅおぇぇっ」
 びちばしゃばしゃ。
 下品にそんな音をたてながら胃を空にする作業を繰り返す。
 死体を処理するのには手間と体力がいる。だが,この苦しさも全て悪いと思えないのだ。けして嫌いでない苦痛だ。

 それではお粗末様でした。明日もいただきます。おえっ。