夢の中、私は立ち尽くしていた。荒ぶれ寂れた街中で一人。右手には鬼呪装備の太刀に、目の前には大人の姿をしている下弦。首を傾げ、下弦を見つめた。
すると奥を指差す下弦。振り替えると一片の花弁が私の頬を掠める。振り返った先には、クリーム色の髪の男の子。咄嗟に駆け出し、手を伸ばした。
「 姉さん 」
『 会いたかッた、ずッと、 』
「 なんで、会いに来てくれなかったの 」
掴んだ肩は、とても冷たかった。私は質問に困惑した表情を浮かべると顔を俯かせたままの弟の顔を見ようと覗き込むが突き飛ばされ地面に尻餅をついてしまった。
「 姉さん、いったじゃないか 」
「 ずッと一緒だよ、大好きだからねって。 」
「 なのに離ればなれなってから一度も来てくれなかった。 」
「 姉さんがこないから僕…吸血鬼になっちゃった。 」
床に押し倒されたと認識するのに時間は掛からなかった。見えた先には、確かに弟の顔と寂れた空。悲しげながらも憎悪が見える目の奥に、何が隠されているのか。私は、知りたかった。
「 姉さんも、こっちにおいでよ。 」
ブチッ、と音がした後に鉄臭い口付け。咥内に流される血液をコクり、と飲み下す。両目を閉じ、弟の後頭部と背中に手を回した。
気付いたら病院のベッドの上に寝転がっていた。嗚呼、確かにグレン中佐が来た後に私は寝たんだ。真っ白なシーツへ目を向けると黒髪の男の子が布団の上に突っ伏して寝ていた。
「 んお…?嗚呼、起きたのか。 」
『 優、なんでここにいるの。 』
百夜優一郎。目の前にいる彼の名前だ。彼とはグレン中佐を通じて知り合い、ちょくちょく会ったりしていた。馬鹿、としかいいようがない男の子だけど才能がある。
「 シノアから聞いた。…お前、傷大丈夫かよ? 」
『 別に、対したことじゃないわ。…優。 』
「 なんだよ? 」
優が傷付く前に、私は知らせないといけないことがあった。優を真っ直ぐ見つめ、優の両肩に手を置くと優は戸惑いがちに私を見つめ返す。
『 柊家は危ない。…深く関わらないで。 』
「 へ…? 」
ぽかん、とした顔をするから離れ、枕元に置いてあるネックレス状の鬼呪装備を手に取り、首につけ、腕に刺さっている点滴の針を戸惑いなく抜けば少しの痛みの後に優の言葉。
「 どこにいくんだよ。…まだ、安静していなきゃいけないんだろ? 」
『 優とは違って忙しいの。大丈夫、無理はしないわ。 』
ベッドから降り、病院服を脱ぐ。慌てる優の声が聞こえるけれど構っている暇はなく枕元に置いてあるシャツに袖を通し、軍服を着用した。流石にクリーニングされているのか血の匂いもしない。
軍服を今着なければいかない理由はただ一つ。私の隊に出撃命令が下ったのだ。数時間前やってきた桃山が去り際に伝えてくれた。
『 優 』
「 …な、なんだよ。 」
『 死なないで。 』
軍服を着終えた私は出口に歩み寄る。扉に手をかけた時、私は死なないでと告げた。扉を開け、走って出口へと向かう。引き留める声がしたが振り替える余裕なんてない。
一心不乱に望んで
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