「 主。 」
『 桃山?…何かあったの? 』
「 その…怪我の方は…。 」
退屈する午後三時。病室にあるベッドに寝そべっていると扉が開く音と共に聞こえてきたのは桃山の声。
『 あー、軽度の貧血らしいから。それと擦り傷とかそんなの。 』
「 わ、私が不甲斐ないばかりに…。 」
『 そんなの気にしてない。…桃山は私を助けてくれたじゃない。 』
穏やかな笑みを浮かべるナマエとは対称的に桃山は奥歯を噛み締め、悔しそうな表情を浮かべた。ですが、と反論しようとする桃山にナマエは遮った。
『 桃山。 』
「 は、はい。 」
『 貴女を信頼してる。 』
すると目を丸くする桃山。口許を緩め、桃山を見上げると桃山は元気よくはい、と言えば病室から出ていく。
するとすれ違いに入ってくる男に口を一文字に結ぶ。下から睨み付けると男は見下すように見つめ。
「 …名古屋で何があった。 」
『 ____何にもなかった、ですよ。グレン中佐。 』
「 ハッ…じゃあこれは何だ! 」
乾いた笑いを浮かべるといきなり両肩を掴み、ベッドに押し付けては首筋を見つめ迫るグレン中佐。無表情で見つめ返せば舌打ちが返ってくる。
『 薬が切れて吸血鬼に血を吸われました。仲間に助けてもらっ 』
「 報告書には書いていなかった。桃山は嘘をつかないからな。 」
『 …それで。 』
「 話せ、何があったか。 」
グレンは中々口を割らないナマエに苛立ちを感じていた。ナマエの首筋にある吸血痕に奥歯を噛み締め、悔しそうな表情を浮かべた。
両肩を握る手に力がこもるのを知って抑えきれないグレンはナマエをじっと見つめた。名前も知らない吸血鬼に血を吸われたことに怒りを我慢できずにいた。
『 それは、貴方が知らなくてもいいこと。 』
「 ッ…、 」
グレンは舌打ちをすると名前から離れ、病室を出ていく。ナマエは安堵の表情を浮かべ、肩にある昔の吸血痕に触れるとベッドに沈み込んだまま目蓋を閉じた。
悔やむだけの日々に
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