___不覚。まさかこんなことになるなんて。



 一時間前、私は仲間と戦っていた。だが、右横方向からきた吸血鬼の援軍に遭遇する前に私たちは後方に下がろうと逃げたところ、私は捕まってしまった。



『 仲間はどうしたの。 』

「 目的は君だったから他は分かんない。 」

『 …内容は。 』



 口許に無邪気な笑みを浮かべ分からないと主張する吸血鬼。さらりと揺れる赤い髪にデカイ図体。これでは素手でもやられてしまうだろう。



「 …ちょっと、君の血を吸ってみたくて。 」

『 は?なんで 』

「 あの人のお気に入りがどんな血なのかなって。折角名古屋まできてくれたんだし。 」



 嗚呼、なるほど。グレン中佐達に怪我を負わせるわけにはいかないから代わりに視察へいかせたのか。これで合点もいく。



 さて、この状況をどうやって打開しようか。仲間の声も聞こえないわけだからきっと死んだか離れにいるか、だ。死んでいたら一人で帰らなければいけない。



『 …そう。吸いたいならご勝手に。 』

「 抵抗しないんだ。 」

『 負けが見えているもの。 』



 こんな男に勝てるわけがない。目の前にいる吸血鬼は不思議そうな顔を浮かべつつもしゃがみ、私にゆっくりと手を伸ばす。



『 ッ…い、た、 』



 束の間、痛みが生じた。首筋から生暖かい液体が漏れ、それと共になくなっていくのを感じる。次第に感じてくる吸血からの快楽に、は、と吐息を漏らせば引き抜かれていく牙に小さく反応した。



「 …随分いい声で啼くね。これじゃ、あの人が夢中になるのも当たり前か。 」

『 あ、あの人ッ、て、だれ。 』

「 …それは、あの人がこの吸血痕をみたら分かるんじゃないかな? 」



 曖昧な返事を返す吸血鬼。すると吸血鬼の後ろから見えた小さな反射光に気付く。きっと後方で援護をしていた仲間だろうか。嗚呼、と言うことはさっきのも…。



『 …ッ、 』

「 顔が真っ赤だけど。 」



 恥ずかしい。それ以外に考えられなかった。近付いてくる顔に顔を背け奥歯を噛み締める。すると顎を掴まれ、引き寄せられると赤い瞳と目が合う。



「 怯えないの? 」

『 小さい頃、似たような状況に遭って慣れているもの。 』

「 …ふーん…。 」



 そして、一方離れにいた仲間である狙撃援護を任されていた如月はナマエを助けようと遠方からクローリーの後ろにいるナマエをスコープで見ていた。



「 …随分と変態な吸血鬼だな。 」



 スコープから目を離すと一旦物陰に隠れ、背後にいる仲間へ目を向けた。桃山、そして赤坂、色崎、自分を含めた四人はどう動くべきか考えていた。



「 このままだと主が危ない。 」

「 …あの吸血鬼、貴族級だよ?それに、二人の従者も連れてる。下手して気付かれたら全滅は目に見えているよ。 」

「 おまけに狙撃担当が一人。中距離戦担当が二人に接近戦担当が一人か。 」

「 …リーダーを助け出す打開策がある。 」



 如月は手持ちのメモとペンを取り出してはサラサラとメモへ記入していく。ザッザッと乱雑に作戦の絵を描き、床へと置くとざっと作戦を説明し始めた。



「 内容は至極簡単なもの。まず、此処が自分達の場所だとして、この場所がリーダーが囚われているとこだとすると距離はざっくり言えば中より離れている感じ。 」

「 相変わらず説明下手くそ。 」

「 いいから聞け。…まず、あの二体の牝豚は常に赤髪の傍に控えてる。それに赤髪を挟むように距離を若干置いて。 」



 紙に吸血鬼の二人を一つの丸として書き、真ん中にもう一人の吸血鬼を見立てた二重丸を書く。挟むように距離を若干置いてある真ん中の距離にバツ印を書き込むとそこをペン先でとんとん、と叩く。



「 きっとあの二体の牝豚は赤髪と同類に強い。足の早さも…それを逆手に取る。ここからはよく頭に叩き込め。 」



 いつもより真剣な雰囲気に皆が息を飲む。如月はペン先を赤髪の吸血鬼を見立てた二重丸の後ろにナマエを見立てた○の中にリと書き込み、それにペン先を向けた。



「 あの赤髪がリーダーから離れた瞬間を狙ってリーダーに狙撃をする。 」

「 主に…!?何を考えてる! 」

「 黙って聞け馬鹿。…リーダーはさっきのスコープの光の反射に気付いてる。音に敏感なリーダーだ、きっと狙撃音に気付いて避けるだろう。そこでリーダーはきっと両手を拘束している手錠を壊してもらおうと両手を上げるはず。前に手錠で拘束されているからな。 」



 とんとん、とナマエを見立てたマークを叩くと自分達の場所を立て続けに叩いた。自分達の場所から矢印をナマエの囚われている場所へ伸ばし、書く。



「 まず、中距離戦担当の二人を牝豚のいる真上の屋根上に待機させ、接近戦担当の一人をリーダーの後ろ上に待機させる。そこで、私がリーダーを拘束している手錠を狙撃して壊す。接近戦担当の赤坂は移動して待機している間は鬼呪装備で気配を消してくれ。 」

「 了解。 」

「 桃山はあの熟女みたいな牝豚の真上で待機。色崎はメイドの牝豚の真上。一回目の狙撃を合図に鬼呪装備を構えろ。タイミングを誤ったら終わりだと思え。 」



 作戦の紙をじっと見つめ、今度は指先でナマエの後ろに書いた扉をとんとん、と叩き作戦をペラペラと話す。



「 そして、二回目の狙撃を合図に鬼呪装備で屋根を破壊して二人の牝豚を桃山と色崎が廊下に誘き寄せる。そして、一番大変なのが___ 」

「 俺か。 」

「 死ぬ可能性が高いが、血を吸われて更に傷を負っているリーダーを助け出すには接近戦担当のお前が必要不可欠だ。頼めるな。 」

「 …わかった。 」

「 赤坂がリーダーを連れて外に出たらインカムを通じてその時指示を出す。赤坂は連絡せずにリーダーを連れてその場から逃げろ。廊下には行かず壁をぶち破ってだ。廊下に出れば死ぬ可能性が高いからな。 」



 三人が頷いたのを確認した後、如月はペンとメモをしまい、薬を取り出すと薬を出せと三人に命令をした。



「 二錠飲め。 」

「 …後で血ヘド吐いたらキーさんのせいだよ。 」

「 最後の戦かもしれないだろ。派手にやろうじゃんか。 」


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