「 姉さん 」
「 ……、 」
「 本当に、姉さんなんだ。 」
フェリドの部屋で寝ている、姉さんにそっと語りかけた。今は部屋の主がクルルに呼ばれていて、不在だ。そっと、青白い顔に手を添えると暖かい、体温。
あの日、フェリドの部屋の前で盗み聞きをした。重症の人間を部屋に連れ込み、怪我を治していると聞いて。優ちゃんかと思い、部屋の前で話をこっそり聞いた。
聞こえたのは、女性の声。話をそのまま聞いていれば僕の本名である、進藤ミカエラという名前。これを知ってるのは姉である、進藤ナマエだけ。
僕の大切な、家族。きゅ、と唇を噛み締め、ベッドから滑り落ちた白い手をそっと握り締めた。僕とは違う、暖かい体温を感じ僕は胸が締め付けられる。
もうすぐで、姉さんは汚い人間の所に戻る。戻らなくていいのに、と僕は呟く。すると背後から聞こえてきた声に振り向き、人物を睨み付けた。
「 姉に会えて嬉しいですかぁ?ミカくん 」
「 おまえ…、 」
フェリド・バートリー。僕の大切な姉を地上から拐ってきた張本人。握り締めていた姉さんの手を離し、僕はフェリドを睨み付けた。
「 姉さんに何かしてないだろうな 」
「 あはぁ〜そんなわけ 」
「 姉さんに何かしてみろ、殺すぞ。 」
剣を抜刀し、一瞬の間合いでフェリドの首に突き付けた。フェリドはいつも通りの厭らしく憎たらしい笑みで僕を見つめる。
「 彼女は大切な僕のセラフだ。 」
「 姉さんは渡さない。 」
ぐ、と剣を握り締める。剣を鞘に修め、ゆっくりと姉さんに向き直った。しゃがみ、姉さんの両手を握り締め、言葉を放つ。
「 必ず、僕が姉さんを守る。 」
そう言い、僕はその場をあとにした。
「 姉さんは僕が守る。だって、ナマエ。…君は、僕に 」
いいかけた言葉を止めた。口を閉じ、薄く開いているナマエの口を見てから顎を軽く掴み、開かせるとその口内に僕の血を注ぎ入れようかと考えが過った。
パッ、と離し眠りについている顔を見るとふと弟のアリアの顔と重なった。それはナマエの鬼呪装備に僕の弟、アリア・バートリーが宿っているから。
久しぶりにあったあの日の夜、打ち明けられた。僕の弟であるアリアを鬼呪装備にしたこと。そして、謝られた。吸血鬼にも家族がいるから謝ったのか。
「 僕は、君にならいいと思うんだけど。 」
彼女は僕の弟を鬼呪装備にしたことに対して罪悪感に苛まれている。別に怒りなんてなかった。少なからず、アリアはきっとナマエに心を許していただろう。
あはぁ、笑える。何故こんなにも似ているのか。やはり、人間が言う兄弟は似た者同士、と言うことか。ゆっくりとナマエの上に馬乗りになり、きっちりと閉められている釦を三つほど外し、昔僕がつけた吸血痕を指でなぞった。
「 流石は僕が認めた人間だねぇ。…少し、妬いちゃうなぁ 」
甘い香りに牙が疼く。口を開け、昔つけた吸血痕にかぶりついた。
大切なセラフ
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