「 いくら待ってもオマエが大好きな主人は戻ってこないぞ。 」
「 うるさいうるさいッ!主は生きてる、また戻ってくるッ! 」
真っ白な世界で白い椅子に腰掛けている桃山の鬼呪装備である幻迷鬼如は頭を抱えて泣いている桃山をつまらなさそうに見つめ、穏やかな口調で話をかけた。
帰ってこないと言えば直ぐ様否定の言葉が返ってくる。ワタシの主人はこんなに弱かったか。胡座をかく膝に肘をのせ、頬杖をつく。
「 オマエはもう駄目だな 」
「 駄目じゃないッ! 」
「 心が脆くなっている。 」
「 なってないッ! 」
ワタシの言葉の全てを否定する桃山。あのときみたいに威勢の良い桃山は何処にいったのか。頬杖をついたまま蹲って全てを否定する桃山を見つめた。
全ては桃山のストッパーとなっているナマエが死んでしまったのが原因だ。あの日のあと現場に行ったようだが見付からず、夥しい量の血が飛散していただけ。
ワタシは桃山がその目に写した物だけを全て記録する。未だに涙を流す桃山を見ると溜息がでる。椅子から降りると蹲っている桃山の前に行き、ワタシは桃山の顎を掴み、上げさせる。
「 現実を見ろ、桃山。ワタシはオマエに言ったはずだ、現状を把握しろと。 」
「 なのに何故オマエは現実を見ない?何故見ようとしない? 」
「 オマエはまた、逃げるつもりか。現実を捨て、一人の世界に閉じ籠り、生き残る。何故かわかるか? 」
「 それはオマエが弱いからだ。 」
無知であまりにも浅はかなオマエに力をやったのはワタシ。溢れんばかりの力を与え、この世に止まる為の勇気を与えたのもワタシ。
「 違うッ違うッ、私が弱いんじゃない、お前の力が足りないからだッ、 」
「 私は強いんだッ、主は私を認めてくれた、ここにいていいといってくれた! 」
「 桃山 」
泣き叫びながら言い訳を口にする桃山。全てを否定する理由は自分が弱いと気付いているからだろう。自分の弱さに、苛まれているから。
「 少し、休もう。 」
「 オマエがオマエじゃなくなる前に、少しの間、眠ろう。 」
震える身体を抱き寄せ、頭を撫でる。するとゆっくりと身体の力が抜けていき、やがてはワタシに身を預ける桃山を腕に抱く。
「 …おやすみ、 」
「 ゆっくり、休むと良い 」
閉じた目から未だに涙を流す桃山に向けて、せめてもの餞を。
浅ましく脆い心
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