「 主!主! 」

「 落ち着け桃山ッ!色崎、安定剤! 」

「 はいはーい。 」



 涙や鼻水やらでぐちゃぐちゃになった顔で桃山は自身の主人を求めた。手を伸ばした先には誰もいなく、回りには二人の仲間が必死に桃山をベッドに押さえ付けた。



 赤坂、如月は桃山の肩を其々押さえ付け、如月は色崎に安定剤を射つように命令をした。色崎は命令通り小さな引き出しから注射器を取り出すと腕に射す。



 中に入っている液体を注入するとゆっくりと桃山の目蓋は降りていく。完全に意識が沈んだ頃、色崎は注射器を抜き、のう盆へ入れ、振り返った。



「 …リーダーがいなくなってから、毎日これだ。起き出せば叫びだし、安定剤を打っての繰り返し……そろそろ安定剤も効かなくなってくる。 」

「 リーダーは桃山のストッパーだったからね。……あれ、赤坂どうかしたの。 」



 眠りについている桃山をふと見れば未だに涙を流していた。のう盆に沢山積み上げられている注射器を横目に赤坂は背を向け、ポケットに入っている小さな鍵を握り締め、扉へと向かう。



「 用事がある。桃山を見とけ。 」

「 ……柊家の監視下に置かれていること、忘れるなよ。 」

「 嗚呼、分かってる。 」



 そう言って赤坂はその場を後にした。暗い表情を浮かべ、彼が行き着く先は、自分が忠誠を誓った人物の部屋。鍵を差し込むとノブを回し、扉を開けると暫く無人だった為か床には微かに埃が積もっていた。



 靴を脱ぎ、部屋の奥へと進む。部屋を見渡せば綺麗に整理されており、カーテンは閉めきられていて、光は遮断されていた。バッ、とカーテンを開くと暗い部屋を照らす日光が入る。



 壁についているボードが目に入り、近付くと何かが貼ってあり、それをまじまじと見つめた。小さな紙に、綺麗な筆記体で書かれている英文に目を通した。



「 私は、まだ忘れられない 」

「 私は、まだあそこにいる 」

「 決して忘れるな、あの日抱いた憎しみを 」



 嗚呼、これはリーダーの言葉だ。自分が自分であるために刻み込んだ言葉。ボードから離れ、辺りを見渡すと次に目が行ったのは机の上に散らばっている、未完成なパズルピース。



 真っ白な、何も絵柄もないピースは数が沢山あり、完成するには時間も掛かるだろう。不意に、リーダーの寂しげな表情と言葉を思い出した。



『 まだ、ピースを広い集めきれてないの。 』



 バラバラに散らばるピースの横には少ない数だがくっ付けられたパズルピースがあり、その一ピースずつに日付が記されていた。



「 ……リーダーの、生きた証。 」



 机の後ろにある壁には額縁にはめられたパズル。黒い文字で日付が一ピースずつに書かれていた。これも、リーダーが生きた証。額縁に手を触れさせると立て掛けが脆くなっていたのか外れてしまい、落ちる直前にキャッチした。



「 っ、 」



 どうやら中のパズルは崩れていないようだ。壁に掛けようとしたとき、見えた写真。幼い頃のリーダーと、金色の髪をした男の子。弟だろうか、仲が良さそうに笑っていた。



 写真の端には手描きで私とミカエラと書かれていた。この男の子はどうやらミカエラと言うようだ。確かリーダーの名字は進藤、だったか。だったら進藤ミカエラというのか。



 不意に、脳裏にリーダーの顔が過った。今はここにいない。もう、いない。俺たちのリーダーは、もう生きてはいない。そっと写真に写るリーダーをなぞると奥歯を噛み締めた。



「 リーダー、 」



 あんたの生きた証は、消すわけにはいかない。


報われぬ願い
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