『 か、下弦?これは一体、 』

「 僕は、下弦と言う名前じゃない。 」



 あの後眠りについた私は、夢の中の寂れた街に立っていた。地面に転がっているのは生きていた、私の仲間の残骸。嗚呼、何故目の前にいる下弦は血塗れでいるのか。



 下弦の名前を呼ぶと悲痛な叫びが飛んでくる。僕は下弦じゃない、違う、僕は、と途切れ途切れに言う下弦。その姿はあまりにも辛そうに見えて、私は居たたまれない。



「 僕の名前を、俺の名前を呼んでよ。 」

『 ……、 』

「 ッ呼べよ早く!俺は、僕は、下弦じゃない! 」



 手に持っていた刀を落とし、頭を抱えて泣き叫ぶ、下弦。左目からは赤い、真っ赤な涙を流し、右目からは透明で綺麗な涙。触れて、落ち着かせたい。でも、でも、



 ___今、触れたら下弦が壊れてしまいそうな予感がして、触れられない。ぐっ、と奥歯を噛み締め、私は下弦に触れたい気持ちを抑えてその場で、彼の名前を口にした。



『 アリア 』



 アリア・バートリー。彼の名前を、もう一度呼んだ。すると弾けたように顔を上げたアリアは、私に飛び付く。反動で地面に押し倒された私は真っ黒に染められた空を背景に赤と透明の涙流すアリアを見つめた。



 血を吸おうとしているのか何時もより幾分か獰猛な牙に少しからず恐怖を覚えた。顔を近づけてくるアリアを見ていれば途端に感じる、鋭い痛み。嗚呼、痛い。



『 アリア 』



 乱暴に血を啜る彼の背中と頭に手を添え、抱き締めた。



『 大丈夫よ。 』



 私の言葉に反応したアリア。牙を引き抜き、そのまま私に抱き付くと子供みたいに泣き出し始めた。寂しかった、辛かった、と連呼するアリアはいつもと違う。



「 認められたかった、僕を、俺を、見てほしかったッ! 」

「 吸血鬼としてではなく、一人の僕、俺としてッ! 」

「 どんなに頑張っても、兄には勝てなかった、苦し紛れの言葉も沢山言ったッ! 」

「 ひとりは、いやだッ、 」



 嗚咽を漏らしながら泣きじゃくるアリア。ぽんぽん、と背をあやすように叩く。寂れた街に、アリアの泣き声と嗚咽が響く。ぎゅ、と抱き締めてやればびくりと震える身体。



『 大丈夫、ちゃんと見てるから。 』


泣いている貴方へ
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