少し、昔を思い出した。僕が、俺が、ナマエと出会ったときのことを。あの時は、お互い負傷をしていて、お互い向き合って対峙してた。
「 僕に刀突き付けるとか、ハッ、生意気。 」
『 お互い様じゃない。貴方こそ、人間様に牙突き立てるとか。 』
「 脆弱な生き物の癖に生意気。…良いから俺に血を吸わせろよ小娘ッ! 」
そう言って目にも止まらぬ早さでナマエを押し倒して血を吸った僕。押し倒した時に聞こえたガンッ、という音を気にせずに血を夢中で啜った。
『 い、たいわ、吸血鬼。 』
「 は?当たり前でしょ。 」
苦悶の表情がまた見たくて、また噛みついた。口内に入ってくる血が今まで飲んできた血より甘くて甘美で、ただただひたすらに血を欲した。
『 ば………と、りー……っ、 』
必死で誰かの名前を呼ぶナマエを目の前に僕は舌打ちをして離れた。嗚呼、そういえばこの時思い出したんだ。あの兄の存在を。
「 フェリド・バートリー。 」
僕の、兄の名前。血が繋がっている兄弟。同じ銀色の髪に、赤い瞳。同じ背丈に、似通った性格。でも、ただ一つ違うものを持ってる。それは、
「 君に向けた、感情だ。 」
僕が君に向けた感情は、僕を見てほしいと言う、寂しさからの感情だ。兄だけを皆見ている最中、僕は誰にも見てくれなかった。誰一人、僕を見てやくれなかった。寂しかった、辛かった。
何よりも、敗北感が強かった。力、権力全てにおいて僕は劣っていた。でも、君だけは僕を吸血鬼としてではなく、一人の僕として見てくれたんだ。
「 君になら、殺されてもいいやって思ったんだ。 」
あの日、僕は君を誘った。此方側に来いと。断った君は僕の不意をついて、僕は気絶。目覚めた場所は真っ暗な鉄格子の中だ。
ちょくちょく君は僕の元へ訪れた。何も言わず、ただ僕を見てから君は去っていく。それが急に途切れた日が、僕の最後だった。いや、僕の身体が終わる日だった。
『 ごめんなさい、アリア。 』
あの時見えた、君の涙。嗚呼、嗚呼、僕が最後に見たかったのは、見たかったのは、
「 君の、笑顔だったんだ。 」
浅き夢見し
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