『 …何のようかしら、バートリー。 』
「 あはぁ、気付いてたんだぁ。 」
またもや厭らしい笑みを浮かべ、私を見つめるフェリドはいつ見ても私の憎悪を無限に膨らませる。鬼呪装備を構えもせずに私は振り返り、両手を後ろ手に組んではフェリドに近付く。
フェリドは切れ長の目を弛く歪ませ、近付く私を拒みもせずに私へ手を伸ばしては頬に指を滑らせる。嗚呼、憎悪を更に逆撫でするかのような動きにじれったさを感じつつ後ろにいる男の子へ目を向けた。
『 また新しい従者?懲りないのね貴方も。 』
「 ミカくんは別さ。 」
『 …ミカ? 』
ミカ、と言う言葉に反応する。よくよく見てみれば私の弟にそっくりで。瞳の色は違う、けれど何処かしら似たような雰囲気を出していた。
『 随分とお気に入りなのね。 』
「 あはぁ、言っておくけどナマエには殺させないよ。僕の大事な子だからねぇ。 」
『 私が殺すのは貴方よ、バートリー。 』
私の言葉にフェリドは深い笑みを浮かべた。頬に触れている手を掴み、思いっきり引き寄せると傾くフェリドの身体。そのまま耳に囁きかける。
『 私が貴方を殺す。それまでに死ぬのは許さないわ。 』
「 あは、じゃあ僕が殺すのもナマエだ。僕が殺すまで死なないでいてよねぇ。 」
離れていくフェリド。じゃあねぇ、とゆったりめな口調を使い、背を向けて片手をヒラヒラとさせるフェリドの背中を私は見つめた。
『 …赤坂、戻るわよ。 』
「 了解。…リーダー、この事は… 」
『 内緒にしてちょうだい。…柊家に知られたらどうなるか知れたもんじゃない。 』
踵を返し、皆と合流するために歩く。段々と重くなっていく足取りに、遂には意識を手放してしまった。
『 下弦 』
「 嗚呼、ナマエ。丁度会いたかったんだ。君と久しぶりに話したくてね。 」
久しぶりに見る、下弦の大人の姿。吸血鬼、貴族級が着る服装を身に纏う下弦は私へ近付くと手を伸ばし、手袋越しに私の首へ触れた。
ゆっくりとした動きで鎖骨へ触れると下弦は問い掛ける。穏やか且つ咎めるかのような口調で。
「 確かに、僕は君に力をあげると約束した。…けれど、僕はなんといった? 」
『 …見えない敵に脅えるな。 』
「 そう。だけど君は見えないなにかに脅えてる。今も、昔もだ。結局、君は 」
___何一つ変わっていやしない。無表情で告げる彼に私は目線を逸らせずにはいられなかった。確かに、私はあの頃から何一つ変わっていやしない。
『 …ねぇ、下弦 』
「 なぁに? 」
『 呪文ひとつで生き返るなら、私は死ぬよ。 』
どうか貴方にこの言葉の意味が伝わりますように。そして今思い出した、私が探しているものは、
なくした藍色の欠片
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