▼ 黒猫が鳴いた




『 今日はどんな本をお探しですか? 』


「 …四季彩、と言う古書なんですけど…。 」



 ___お祖父ちゃんが、読んでみたいらしくて。そう言っては健気に笑うこの少年はきっと人想いなのだろう。



 不意に少年が弟と姿が重なった。目の錯覚だと分かっているのにも関わらず、無意識に手を伸ばしていた。___弟は、もういないの。



『 あぁ、ごめんね。えっと…四季彩の古書は…。 』


「 これだ。 」



 不意に響いた男性の低い声に思わず首を傾げた。顔をそちらへ向けるとさらりと揺れる黒髪に、揺れるマフラー。黒と白に統一されたその姿に見覚えがある。



『 …いらっしゃいませ。 』


「 今日は話があってきた。 」



 ありがとうお兄さん!と元気の良い言葉を耳にしては私は持って帰っていいよと返し、少年は元気に頷くと店から出ていく。



 彼を一目見てからこちらへ、と誘導した。奥へ入り、茶の間に通すとテーブルを挟んで据わる。隣にいる小さな子供は私の隣へと腰を下ろした。



『 何のご用でしょう? 』


「 惚けるな。 」


『 私には何のことやらサッパリ。 』



 肩を竦め、分からない表情を浮かべると彼はスッ、と切れ長の目を更に細める。手を戻し、柔らかな表情を浮かべ。



『 お前も鬼だろ、と言いたいんですね。 』


「 血の臭いがする。…鬼だろう。 」


『 私は普通の鬼、ではありません。獄都の鬼…所謂獄卒です。亡者及び鬼狩りを担当とする、地獄の鬼。現世に留まり続ける獄都の鬼は今のところ、私だけです。 』



 そう答えれば隣の小さな子供はほぅ…と興味深そうな感嘆を吐く。小さな子供から出るとは思えない感嘆を聞き、首を傾げた。___直後。



「 獄卒を一度食べてみたかったんだ。 」


「 …シロ。 」


「 分かっている正太郎。少し、味見するだけだ。 」



 何がなんなのか分からなかった。視界の中には妖艶な笑みを浮かべた少年と、天井。服に手を掛けられ、服を無理矢理開かされ釦が飛ぶ。



『 貴方も鬼ですか。 』


「 まぁな。…なぁに、少しの我慢だ。 」



 ベロリ、と鎖骨辺りを舐められる。不快感に顔をしかめ、思わず髪に挿してある簪へと手が伸びるがその手は大きな手に捕まれ阻止された。



「 じっとしていろ。 」


『 ッい…ッ! 』


 途端に聞こえた声と共に生じる激痛。ぶちり、と肩の肉を咬み千切られ、肩の服が濡れていくのが分かる。は、は、と途切れ途切れに息を吐けば口許に血液をつけ、満足げに笑みを浮かべる少年と目が合う。



「 なるほど、獄都の鬼はこんなに巧いのか。 」


『 ッ…くそ、 』



 痛みに呻き、片手で少年を押し退けようとするも出血が治まらず力がでない。顔を寄せられ、耳元で囁かれた言葉に意識を飛ばした。



「 精々、楽しませろ。 」




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